
「日傘の裸婦」と呼ばれるこの作品は、1913年の第二回フュウザン会に、「エチュード」と題して出展されたもの。裸婦に日傘を持たせた構図がめずらしく、評判を呼んだ。関係者の証言から、これはもともと美術学校において習作として描いたものを、後に改変したものという。
裸婦がポーズをとっているアトリエは、上野の美術学校の教室である。この教室にモデルを呼んで、その裸のポーズを学生たちがスケッチしたわけだが、そのモデルに日傘を持たせたのは鉄五郎の発案だったそうだ。
スタイルのよくない日本女性の裸体を、いささかも理想化することなく、ありのままに描いている。五頭身に見えるような寸詰まりの体躯、胴長で短足のアンバランスさ、そして不愛想な顔。どうみても女性らしい美しさは感じられない。しかしこれが日本女性のありのままの姿なのだ、といった開き直りが感じられる。
日傘を持たせたのは、奇抜さを狙ったところもあるが、傘の赤紫の色彩が、モデルの肌に反射する様子を表現するためだっとともいわれる。たしかにモデルの肌のあちこちに、傘の赤紫の光がさしているのがわかる。
(1913年 カンバスに油彩 80.5×53.0㎝ 神奈川県立近代美術館)
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