木の間風景:萬鉄五郎の抽象風景

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萬鉄五郎は土澤滞在中にかなり抽象化された風景画を何点か描いている。「木の間風景」と題したこの作品は、東京へ戻ってから制作したものだが、抽象化の度合いが一層進んで、一見したところでは、これを風景画と見るものはいないのではないか。だが、この絵が、具体的な風景のイメージをもとに、それを抽象化したものだということが、下絵などから推測されている。

鉄五郎は、やはり「木の間風景」と題した水墨画を残しているが、その水墨画がこの油彩画のもとになったのではないかと推測されている。それを前提にして絵を分析すると、中央の白い部分が農家の建物の屋根であり、両側にいくつか斜めにのびた細長いものは樹木ということになる。ところどころに見える丸い穴に相当するものは、水墨画のほうには見られないので、これは鉄五郎がこの絵のために考えたアイデアであろう。

この時期鉄五郎は、カンディンスキーに関心をもっていたようで、その抽象画のテクニックをこの絵に応用したとも考えられる。それまではキュビズムの影響を強く受けていたのだが、カンディンスキーの抽象画にも魅せられていったことを感じさせる作品である。

あいかわらず暗い色彩感覚だが、鈍いオレンジとグリーンを対比させるなど、インパクトっを狙った工夫も感じさせる。

(1918年 カンバスに油彩 73×100㎝ 新潟県立近代美術館)





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