華岡青洲の妻:増村保造、有吉佐和子の小説を映画化

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増村保造の1967年の映画「華岡青洲の妻」は、有吉佐和子の同名の小説を映画化した作品。この小説は大変な評判を呼んだので、出版の翌年に早くも映画化された。日本人おなじみの嫁・姑関係をウェットに描いていることが世間に受け、以後テレビや舞台に繰り返し取り上げられた。

華岡青洲という人物は、18世紀後半から19世紀前半に活躍した実在の医師で、世界で初めて全身麻酔による手術を成功させたという。その功績は世界はもとより日本においても、一部の医学関係者にしか知られていなかったが、有吉のこの小説が一躍彼の名声を高めることとなった。

とはいえ有吉は、医師としての青洲の偉大さよりも、かれを支えた妻や母の献身的な態度に焦点をあてている。とくに妻は、夫よりも高い身分の家に生まれながら、夫の美しい母にあこがれて嫁入りしたというふうになっている。その妻が、義母と競い合うようにして、夫の麻酔の実験台となり、その挙句に失明する経緯を追っている。要するに夫を支える妻の美談になっているわけである。

映画も、妻の美談に焦点をあてている。その妻を若尾文子が演じ、夫の母を高峰秀子が演じている。若尾の演技は抜群であるが、高峰もなかなかよい。若尾演じる妻は、夫の母親に見込まれて嫁入りしたという自覚をもっているので、姑に対しては礼儀を尽くす。じっさい彼女は、姑からかなりのいやがらせを受けても、それに根をもつようなことはしないのだ(時には爆発することもあるが)。

そんなわけで、人気沸騰中の有吉の原作の雰囲気を活かしながら、日本人好みの嫁・姑関係のあり方をテーマとしたもので、増村としては、おとなしすぎる作品に仕上がっている。






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