焼き鳥コースを賞味しながら新年を寿ぐ

| コメント(0)
四方山話の全体会を久しぶりに催した。ほぼ年一回ペースのこの会合に、小生は昨年風邪のため欠席したので二年ぶりの参加だ。一時は十数名の規模を誇ったこの全体会、年を重ねるたびに規模が縮小し、今年はわずか六人。幹事会メンバー四人のほか、小、福の二子だ。小子とは数年ぶり。元気でやっていますかと聞くに、そうでもないという。昨年は大きな手術をやったし、腎臓の具合も相変わらずだ。週三回透析を受けねばならないので、旅行もままならぬ。

俺は職場内秘密結社の活動に励んでいるよ、と福子が言う。なんだいそれは、と聞くに、痛風友の会というのだそうだ。痛風にはいい薬ができた。尿酸降下剤といって、それを服用すると痛風のリスクが低くなる。仲間内で励まし合ってその薬を飲むようにしているのだ。痛風はつらいからね。ああ、そうかい。俺も尿酸降下剤は飲んでいるよ。おかけで尿酸値が低くなった。

俺達くらいの年になると、あとは死ぬ準備をするだけだね。一番みじめな死に方はボケ死にすることだが、家族の暮らしも気になる。自分が死んだ後に家族が幸せになる見込みがあればよいが、そうでないと心残りだ、と誰ともなく言い出す。お前のところは孫は何人いるのかい、と福子に水を向けると、五人いるよという。男の子が四人、女の子が一人だ。そういって相好を崩す。その照れ笑いが何とも好々爺を感じさせる。孫は可愛いが、婿に生活力がなくて困っている、そう福子が言うと、生活力のない男が最近増えたね、と小子が言う。俺の知っているカップルは、亭主に愛層をつかして別れた女に、男がしつこく付き纏う。子供に会わせろと言うのだ。養育費も出さないで、父親の権利を主張するのは実にけしからん。

ところで季節柄カキなどを食いたいね、と小生が提案すると、石子が申し訳なさそうに、今夜は最安値のコース料理を注文しているので、それで我慢してもらいたいと言う。それはどんなコースかね、と聞くと、仲居が焼き鳥六本を中心に組みたてたものですと答える。うちは焼き鳥屋ですので。参考にメニューを見せてもらえないかね、と浦子が仲居に言う。仲居がメニューを持ってくる。それを見た浦子が、メニューにはカキは書いてないから諦めるんだねと慰めるように言う。メニューにないのでは仕方がないね。

焼き鳥コースを賞味しながらビールを飲んでいる間に、話題はおのずからトランプの復権に収斂していく。なぜあんなとんでもない爺さんが圧勝したのかね、とみな不審な顔をするので、小生はニュースサイト・アクシオスの分析を紹介した。アメリカの選挙結果は各州の動向の積み重ねだ。大部分の州は、共和・民主のどちらかへの支持で固定されている。ところが七つの州は非常に流動的で、選挙のたびに勝利する者が違う。そんなことからスウィングステートと呼ばれている。前回はこのうち六つの州をバイデンが制して勝利することができた。今回はそのすべてをトランプが制して勝利した。アクシオスの分析によれば、それらの州における獲得投票数の差は数千乃至数万票だ。ところがそれを上回る数のアラブ票が存在する。そのことから、アラブ票を獲得するか、あるいは失うことで、勝敗の帰趨が決まる。アクシオスは、バイデン陣営に警告する意味合いでこの分析を示したのだったが、バイデンもハリスもそれを無視した。その結果アラブ票がハリスから離れ、トランプの勝利をもたらしたのだ、と。

トランプがハリス以上に親イスラエルとわかっていながら、なぜアラブ票はトランプを勝たせるような動きをしたのかね、と小子が言うから、アラブ票はトランプを勝たせるためではなく、自分らを裏切ったハリスに鉄槌を加えただけの話だ、と小生が答える。しかし自分の首を絞めるとわかっているような不合理な行動をした理由はなにかね、と小子が重ねて聞くので、合理的な理由などはない、民主党への感情的な反発さ。民主党はその反発をまともに受けたわけで、自業自得というべきだ。とにかくイスラエルがいまやっていることは実にひどい、と小子が念を押すように言う。こんなことをやっていては、自ら反ユダヤ主義を煽るようなものだ。ナチスによるホロコーストを非難する理由がなくなる。自分たちもナチスと同じようなことをやっているわけだから。

いずれにせよトランプが復権したことで、国際政治は劇的に流動化するだろう。トランプが提示した人事案とか政策の一部を見ると、非常に危険な傾向が読み取れる。アメリカ政治はならず者の集団が牛耳ることになる。ならず者は自分らの権益のためには何でもやるので、どこへ向かうか予測がつかない。混沌とした状況が現出するだろう。アメリカ政治全体がファッショ化する可能性が大きい。その結果、国連とアメリカの関係は悪化するだろう。国連加盟国の多くは、国連の利益を優先して考えるだろう。アメリカは孤立を恐れず、国連への攻撃を強める可能性が高い。その結果、国連対アメリカの対立という構図が、トランプ時代の国際関係を規定することになる。なんともおぞましい話だ。

トランプの再登場は災難なことだが、最近のインフレ傾向の高まりも災難だね。こう小生が言うと、たしかにインフレの打撃は大きい、とみな同意する。女たちはみな、スーパーでの買い物に大きな異変が起きていることに憤っている。たしかに、キャベツも白菜もレタスも倍以上の値がついている。女たちに限らず、だれでも異常に思うよ。日本はすでに十分生きづらい社会だが、より一層生きづらくなるというわけだ。

こんな具合に、いつものことながら話題はあちこちに飛んだ。今宵は小子が一番元気があった。その小子と福子に加え、石子もこれで帰るというので、残りの三人で例のバーに行った。バーで何を話したかよく覚えてないのは、かなり酔っていたせいだろう。一つ覚えているのは、山谷堀で花見をやりがてら、吉原大門前の料理屋中江で蹴とばしを食おうと談合したことだ。その際には清子にも声をかけてやろう。清子の都合のつく日に設定し、是非やろうじゃないか。この話は、小生から石子に報告し、石子から清子に連絡してもらうよう図らいたい、だいたいこんな趣旨で合意し、解散した次第であった。





コメントする

アーカイブ