糸杉:炎の画家ゴッホ

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ゴッホは南フランスの風景を象徴するものとして糸杉を選んだ。セザンヌが松を好んで描いたことへの対抗心かもしれない。糸杉はすっきりとまっすぐに立ち、空に突き抜けようとするその姿に雄々しさを感じたようだ。ゴッホは弟テオへの手紙の中で、糸杉を「エジプトのオベリスクみたいだ」と言っている。オベリスクも天を突き抜けるようにすっきりと立つ。

この糸杉は昼間の明るい日の光の中に立っている。右上に浮かんだ下弦の弓張月がそれを物語っている。月の周囲には、青空が広がり、そのところどころに雲が浮かんでいる。その様子からして夏の雲を連想させる。

糸杉の描き方には強いエネルギーが感じられる。そのエネルギーは荒々しい筆づかいから生まれている。平筆で掃くようにして絵具を塗っているのだろう。筆の軌跡がなんとも言えない効果を表している。

樹下に生えた草むらの描き方も、荒々しいタッチを感じさせる。こうした荒々しさは、この時期の人物画にも伺われる。ゴッホが晩年になって完成させたスタイルである。

(1889年6月 カンバスに油彩 95×73㎝ ニューヨーク、メトロポリタン美術館)






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