ネタニアフの極右民族主義

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先般イスラエルで行われた総選挙で、汚職疑惑などがもとで劣勢を取りざたされてもいたネタニアフが、与党リクードの勝利の結果、五期目の首相を務めることになった。このことの背景には、トランプによるネタニアフの強力な応援とか、経済を始め好調な国内情勢とかが指摘されもするが、根本的な要因はイスラエルのユダヤ人が極右化しているということだろう。ネタニアフはそうした動きを反映しているに過ぎない。これは、トランプがアメリカ国民の右傾化傾向を反映しているのと似たような事態だ。

かつて、イスラエルのユダヤ人は、リベラルな傾向が強く、民主主義とか人権とかいったいわゆる普遍的な価値を重んじる人々だった。それは、国家を持たない民族として生きていくには、民族主義的な価値よりも、普遍的な価値に訴える必要があったからだ。そういう傾向は、ユダヤ国家が作られる以前はもとより、ユダヤ国家すなわちイスラエルが作られたあとでも、かなりな期間維持されて来た。しかしネタニアフが登場して以来、そうしたかつての価値観は、多くのユダヤ人によって嘲笑されるようになり、ユダヤ人はそれに代わって、民族主義的な、つまりユダヤ至上主義的な傾向を強めている。ネタニアフはそうした傾向を敏感にかぎつけて、それに乗っているに過ぎない。

今やイスラエル国内のユダヤ人の数は600万に達した。そのなかで北アフリカや中東出身のユダヤ人はもともと権威主義的で右翼的な傾向が強かったといわれる。これに加えてソ連崩壊後に旧ソ連圏からおよそ100万人といわれるユダヤ人がイスラエルにやってきた。これらのユダヤ人も権威主義的で右翼的だとされる。要するに、イスラエル国内での人口分布が代わった結果、右翼的・民族主義的傾向が強まったということらしい。その右翼民族主義を掲げたネタニアフは、パレスチナにおける二国家共存政策を破壊して、それのイスラエルへの編入=侵略を公然と目指すようになった。

これは、基本的には、ユダヤ人が自前の国家を持つようになったことの結果だと思う。自前の国家を持つことは、それ自体としては非難されるべきことではないが、問題は他者から奪った領土に自分の国家を建設することだ。イスラエルの歴代の政治家たちは、自分たちが他者から奪った土地に国家を建設したという事実をわきまえて、これまではリベラルな政策をとってもきた。しかし、ネタニアフはそうしたいきさつを一切無視して、ユダヤ人のイスラエル国家が大昔から正当な国家として存在してきたというような擬制の上に立って、露骨に民族主義的な政策をとっている。その政策の眼目は、パレスチナをイスラエル国家に統合したうえで、そこに住むパレスチナ人を、恩恵的に存在させてやるというものだ。いまでもイスラエル本体には数多くのパレスチナ人が共存しているが、ネタニアフはかれらを二級市民として差別している。

ネタニアフが体現しているイスラエルのユダヤ人たちの民族主義的な傾向は、いづれは自分自身にはね返ってくるとユダヤ人は自覚するべきだろう。これまでは、人類の普遍的な価値に訴えてナチスドイツのホロコーストを裁いて来たユダヤ人も、自分自身がパレスチナ人に対して自民族中心の抑圧政策を続ければ、それはナチスがやっていたことと少しも変わらない、その結果イスラエルのユダヤ人たちは、人類の普遍的な価値に訴える資格を失うということを、十分に自覚すべきなのである。





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