御法度:大島渚

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大島渚の1999年の映画「御法度」は、大島にとっての最後の作品だが、この中で大島は、新選組における男色を描いた。大島には男色趣味はなかったと思うが、その大島がなぜ男色をテーマに選んだのか、よくわからないところがある。根っからの男色者でない大島が男色を描くと、たとえばデレク・ジャーマンのような男色者の男色表現とはかなり違って、いささか差別的に見える。この映画の中で、男色行為はいかがわしい行為だという偏見に彩られているし、したがって男色者も変態者と見られている。じっさい、この映画のなかの男色者たちは、風紀を乱す不心得者として、粛清されてしまうのである。

原作は司馬遼太郎の小説「新選組疾風録」だが、司馬は綿密な取材にもとづいて書いたわけだはないようだ。だから新選組に男色が流行していたとは、確かな史実としては言えない。あくまでも、フィクションとして、面白おかしく書いたのだろう。そのついでに、近藤や土方まで、美少年にいかれるというような設定にしている。もっとも近藤や土方は、男色を実行するまでにはいかないで、かえって男色が隊の風紀を乱すとして、男色者たちを粛清するのである。

その粛清の実施にあたったのは、ビートたけし演じる土方と沖田総司だが、その沖田にも面白い役柄を演じさせている。沖田は土方に向かって、上田秋成の小説「菊花の契り」の読後感を語って聞かせるのだが、それはその小説に出て来る二人の男が、同性愛の関係にあったと解釈するものだった。「菊花の契り」を同性愛の観点から語ったものを、小生はほかに知らないので、これはおそらく大島の思いか、あるいは司馬の解釈なのだろう。

映画には、新選組に新たに加入した架空の隊員をめぐって展開する。一人は松田龍平演じる美少年で、もう一人は浅野政信演じる浪人である。松田龍平は松田優策の倅だそうだが、女にしてもおかしくないほど、あやしい色気を感じさせる。それに浅野が欲望を覚えて男色をしかける。それに目覚めた松田は、他の男をも相手に男色行為を重ねる。その結果、よろしからぬ事態が出来する。それが隊の統制を乱すものと判断した近藤と土方が、男色にかかわったものらを粛清しにかかるのである。

近藤勇を崔洋一が演じている。崔は「愛のコリーダ」で助監督を務めるなど、大島とは付き合いがあったが、のちに監督として自立し、「月はどっちに出ている」などを作っていた。その崔に大島が声をかけて、近藤の役をやらせたのである。もっとも崔は、役者としてはあまり精彩を感じさせない。そのため、この映画の中での近藤にも精彩がない。その分を、衆道の美少年を演じる松田や、土方俊三を演じるビートたけしに、お株を奪われたかたちだ。

なお、題名の「御法度」は、新撰組内の社中取り締まり規則のことをいう。新選組は隊士の行動をこと細かく規制していたが、その御法度に衆道禁止の規定がなかったのはご愛嬌というべきだろう。





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