オフサイド・ガールズ:ジャファル・パナヒ

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ジャファル・パナヒの2006年の映画「オフサイド・ガールズ」は、イランの熱狂的なサッカー少女たちを描いたものだ。イラン人のサッカー好きは有名で、少年たちは街頭でサッカーを楽しむのが生き甲斐だ。そんな少年を、アッバス・キアロスタミが「トラベラー」という映画の中で描き、イラン人がいかに少年時代からサッカーに熱中しているか、世界中にメッセージを送った。その熱中ぶりは、日本の野球少年に勝るとも劣らないようだ。

日本では、少女たちも野球を楽しみ、国際大会にも出場しているが、イランでは、女性がサッカーをすることはともかく、サッカーの公式試合を見物することすら、法律で許されていなかった。理由は曖昧なものだ。女が男に交じってサッカー見物するのは、風紀紊乱につながるということらしい。

この映画は、2005年に行われたワールドカップ予選を舞台にしている。イラン対バーレーン戦が行われ、この試合にイランが勝てば決勝トーナメント進出が決まるというので、イランじゅうが大興奮。テヘランのサッカー競技場には10万人の観衆がつめかけた。その観衆の中に、この歴史的な試合を是非見たいという少女たちが、大勢交っていたのだ。少女たちの中には、無事検問を通過して試合を楽しむものもいたらしいが、要領の悪い少女は、官憲につかまって、競技場の一角に監禁されてしまう。

少女たちはなんとかして、官憲をだましてでも、試合を見ようとするのだが、なかなかその機会がない。せめて官憲に試合を見てもらって、その様子を中継してもらう程度だ。それでも少女たちは、自分の目で試合が見たい。そこでトイレに行きたいといって、見張りが油断をした隙に逃げ出して、試合を見る少女も出て来る。しかし、大部分の少女たちは、監禁されたまま、試合をじかに見ることができない。

そのうち、バスがやって来て、取調所へ移送されることになる。そのバスのなかで、少女たちはこわれかかったラヂオの音を頼りに試合の行方を追う。バスがあるところに停まると、そこのテレビに試合の模様が映し出されている。テレビ画面は、イランの勝利を伝える。それを聞いた少女たちは大喜び。同行の少年が持参していた花火を鳴らして、勝利を祝う。すると街頭にいた親爺がバスの中に乗りこんできて、少女たちとともに勝利を祝う。とにかく、てんやわんやの大騒ぎなのである。いかにイラン人が、少女たちを含めて、サッカーを愛しているか、この映画からはひしひしと伝わって来る。

少女たちの熱狂を見た兵士も、その熱狂に感染されたように、一緒になって大喜びした挙句、祝儀として少女たちを逃がしてやるのだ。そのことで自分たちが大目玉をくらうことを覚悟のうえで。

こんな具合にこの映画は、サッカー少女たちの熱狂を通して、イラン人のサッカー好きのすさまじさを描くとともに、イランにおける女性差別を糾弾するようなところもある。だがこの映画でのパナヒは、前作「チャドルと生きる」のようには、社会への批判意識を表には出していない。あくまでも、イラン人少女たちのサッカーへの熱狂的な思いを、暖かい気持ちで紹介しているといったふうなのである。

イランでは、2019年の10月に、サッカーの国際試合を女性が観戦することが解禁されたそうだ。





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