ブランコ:ルノワールの世界

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「ブランコ(La balançoire)」は、「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」とほぼ同時期に描かれ、ともに第三回の印象派展に出展された。それをカイユボットが購入し、彼の死後フランス政府に寄贈された経緯がある。

この絵は、当時ルノワールがアトリエとして借りていたモンマルトルの家の庭を描いたもの。モデルは、「ムーラン」にも登場する女優ジャンヌだ。男たちも、「ムーラン」に登場した彼の友人たちなのだろう。前面の四人の人物のほか、後景のなかに数人の人物が描かれている。

この絵も「ムーラン」同様、光の表現に力を入れている。光は、明暗対比を強調させるほか、白や黄色などの明るい色を点描的に入れることで表現している。光を点描的に表現する方法は、当時誰も用いていなかったので、批評家たちには正当に理解されなかった。かれらは、白い点描風のハイライト部分を、虫のようだと言ったり、シミのようだと言ったりして、けなしたものである。

光の表現と並んで、この絵では、色彩の効果についても、きわめて計算された描きかたがなされている。主人公であるブランコに乗った女性は、白い服装のせいで背景から浮かび上がって見えるし、その白い色にブルーの模様が強いコントラストを見せる。その娘の前に、こちらに背中を向けて立っている男は、地味な色の服を着ているために、本来なら後退して見えるはずのものが、女性の色との強い対比性があるために、かえって前進して見える。そのためにこの男は、女性よりも手前に見えるのである。

その男の左側にいる少女は、強い光を浴びて、これもまた明るく浮かび上がって見える。それに対して、木の向こう側にいる男は、やや地味な感じに見える。背景の数人の人物たちは、ごく曖昧な色彩で描かれているために、背景のなかに溶け込んでいるように見える。

地面を暖色系で描き、それを寒色の森の色と対比させているために、画面全体が、非常に引きしまって見える。ルノワールとしては、会心の作だったといえよう。

(1876年 カンバスに油彩 92×73㎝ オルセー美術館)






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