黒い下着の女 雷魚:瀬々敬久

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瀬々敬久は、ピンク四天王に名を連ねるなど、ピンク映画で実績を上げた監督だ。ピンク映画というのは、ポルノ映画の一種ではあるようだが、ポルノ映画が専ら性的興奮を目的としているのに対して、物語としての面白さを合わせて追及するところに特徴があるらしい。その反面、性的興奮は抑えられぎみになるので、中途半端さがものたりないという意見もある。

瀬々はかなりな数のピンク映画を作ったが、1997年の作品「黒い下着の女 雷魚」は、その代表作といえるもの。タイトルにあるとおり、黒い下着の女と雷魚を釣り上げた男が行きずりのセックスをするという内容だ。だが、単にセックスをする場面を描くのではピンク映画とはいえないから、かれらがなぜ、どのようにして、セックスをするにいたったか、そこに物語性をからませて描いている。

黒い下着の女は、膵炎をわずらって入院しているところを、病因から抜け出して、男漁りをしている。彼女は、もう死ぬと思っているので、死ぬ前にセックスを楽しみたいと思うのだ。そんな折に一人のもの好きと出会って、かれとラブホテルに入る。ところがその男が突然憎くなり、隠し持っていたナイフでめった切りにして、殺してしまう。どうも男から娼婦扱いされたことで切れてしまったようなのだ。

一方、雷魚を釣り上げた男は、ガソリンスタンドで働いているが、ある日、黒い下着の女とその連れの男がスタンドにやって来る。その時はなにも起こらなかったが、しばらくして黒い下着の女と懇ろな関係になる。女が殺人を犯したことを知っていて、それを見逃したりするうちに、懇ろになったのだ。その挙句にラブホテルに行き、そこでセックスをするのだが、今度はどういうわけか、男が女を憎むようになり、女を縊り殺した果てに、死体をボートに乗せて、ボートごと焼却してしまうのだ。

ボートを焼却した場所は、かつて雷魚を釣り上げたのと同じ場所で、佐原付近の水郷地帯らしい。登場人物の言葉には茨城なまりがあるから、対岸の鹿島地方かもしれない。

こんな具合に、筋としては非日常的なのだが、セックスのほうも非日常的である。普通セックスというものは日常的なものだ。この映画で描かれるセックスの場面は、二度しか出てこないのだが、その二度とも異様である。というのも、どちらも死と同居しているからだ。一度目のセックスシーンでは、ナイフをもった女が裸の男をめった切りにするのであるし、二度目のセックスシーンでは、男が女を縊り殺すのである。そのように死が同居することで、この映画のなかのセックスシーンは、いやおうなくエロチックなものに高まっている。







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