浜町河岸:鏑木清方

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昭和五年の作品「浜町河岸」は、「築地明石町」、「新富町」とあわせて美人画三部作を構成する。構図も似ており、サイズも同じであることは、清方がこれら三つの作品をシリーズものとして意識していたことをあらわす。浜町河岸には、清方は五年ほど暮らしていたので、町の雰囲気は実感としてわかっていた。その町に相応しいのは、庶民の娘といわんばかりに、この絵のモチーフは平凡な町娘だ。

その町娘は、銀杏返しの髪型をして、白足袋に日和下駄をはいている。手に扇を持っているのは、稽古の帰りだろう。振袖の文様がシンプルで、いかにも町娘にふさわしい。

背後に遠く見える火の見櫓は、深川の安宅にあったものだというから、その間に墨田川があることになる。この絵では、川の存在は一切省かれ、あたかも大きな広場の一角に娘が立っているように描かれている。

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これは町娘の上半身を拡大したもの。下着や帯の赤が、画面に彩りを添えている。この赤があるために、モチーフである町娘のはなやかな雰囲気が強調されて映る。

(1930年 絹本着色 174×74㎝ 東京国立近代美術館)






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