
ホロフェルネスの首を切るユーディットの話は、聖書の「ユディト記」にもとづいており、さまざまな画家がモチーフとしてきた。もっとも有名なものとしては、ミケランジェロの天井画やクラナッハの連作があり、また近代ではクリムトが取り上げた。サロメと違って妖女ではなく、ユダヤ民族の救世主なのであるが、男の首をナイフで切り落としたという行為が、烈女としての彼女のイメージを形成した。
カラヴァッジオのこの絵は、ナイフを振りかざしてホロフェルネスの首を斬り落とそうとしている瞬間を描いている。左手でホロフェルネスの頭を押さえ、右手でナイフを持ったユーディットの表情は、嫌悪でゆがんでいる。ユーディットの脇には、切り落とされた首を受け取ろうと勝ち構えている召使の老人が、固唾を飲んで事態を見守っている。

これはホロフェルネスの顔の部分を拡大したもの。首にナイフを当てられ、苦痛にゆがんだ顔で、ユーディットのほうを見上げている。首はまだつながっており、紅白の紐を結わえた首輪をつけている。

これはユーディットの表情を拡大したもの。これも、モデルはフィリーデ・メランドローニである。フィリーデ・メランドローニは非常に気の強い女性で、恋敵の女をナイフで切り付けたという話がある。この絵の中の彼女の表情にも、そうした気の強さがあらわれている。
ユーディットの姿は、ホロフェルネス同様に、暗黒から浮かび上がって見える。それと対比的に、背景にある赤いカーテンは、暗黒になかば溶け込むような具合に描かれている。
(1599年 カンバスに油彩 145×195㎝ ローマ、国立古代美術館)
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