オール・アバウト・マイ・マザー:ペドロ・アルモドバル

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ペドロ・アルモドバルの1999年の映画「オール・アバウト・マイ・マザー(Todo sobre mi madre)」は、息子を失った母親が心の痛手から立ち上がってゆく過程を描いたものである。邦題は英語のタイトルをそのまま使ったものだが、スペイン語の原題も同じ意味である。そのタイトルからは、息子の目から見た母親というイメージが思い浮かぶが、かならずしもそうではない。これは息子を失った母親の、息子が死んだあとの話なのである。

息子が死んだのは交通事故のため。かれは自分の誕生祝に母親と共に劇場に出かけたのだったが、舞台の主演女優にサインをもらおうとして追いかけている間に、交通事故にあって死んでしまうのだ。母親は病院のスタッフ(移植コーディネーター)であり、息子の脳死した体から、臓器を移植することに同意するのである。すっかり気落ちした母親は、息子の死を父親(自分のかつての夫)に知らせようと思い、バルセロナに行く。この父親とは息子が生まれた時から別れ別れになっていたのだった。その父親のことを息子が強く知りたがっていたので、母親は息子の誕生日の夜に話してやるつもりでいたのだが、その前に息子に死なれてしまったのだった。

母親はバルセロナでかつての友人をはじめ色々な人と出会う。おかまのアグラードとか、エイズになって妊娠した若い女性ロサとか、その母親と認知症の父親とか、息子があこがれていた女優ウマとか。そうした人々とのかかわりを通じて、次第に心の整理がつき、生きる希望を取り戻すというのが、この映画のメーン・プロットである。

この映画には、母子関係の他にもうひとつ大きなテーマがある。ゲイである。息子の父親は実はゲイだったのである。母親はそれをわかっていて、彼の子を妊娠したのだった。また、ロサに妊娠させたのも、かれであった。なぜ彼女らがゲイの男とセックスするようになったか。それは明示的には示されていない。純粋なゲイではなく、バイセクシャルだったのだろう。だがエイズの可能性は高い。そこで事情を知った母親は、ロサを産婦人科に連れて行った際に、エイズ検査も受けさせるのである。その結果は陽性だった。ロサは出産するとまもなくエイズが発症して死んでしまうのだ。

ロサの生んだ子が祖母から歓迎されていないことを感じた母親は、子を引き取って自分で育てることにする。また、その子を父親に見せる。その父親は、自分の死んだ息子の父親でもあるのだ。

こんな具合に結構入りこんだ筋書きの映画であるが、息子を失った母親が精神的な打撃から立ち直っていく過程を見るのは、感動的でもある。その感動をウェットに表現するのではなく、コメディ・タッチで描いているところは、アルモドバルらしい。とくにおかまアグラードの存在感が大きい。この人は、映画の中では女に性転換した男として描かれているが、実は女性だということである。小生も、映画を見ているあいだは、すっかりおかまだと思ってしまった。

なおこの映画も色彩感にあふれている。画面が明るく、華やかである。






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