トーク・トゥ・ハー:ペドロ・アルモドバル

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「トーク・トゥ・ハー」という邦題は、英語のタイトル(Talk to her)をそのままとったものだが、スペイン語の原題(Hable con ella)も「彼女と話せ」という意味である。ペドロ・アルモドバルが2002年に公開した映画だ。テーマは、事故で植物状態になった二人の女性と、彼女らを愛する男たちとのコミュニケーション。

コミュニケーションといっても、片方は植物状態で意思疎通ができないわけだから、男たちからの一方的な呼びかけという形になる。英語のタイトルはそれを考慮して、「彼女に話しかけろ」としたのだろう。

二人の女性のうち一人は、ダンス教室に通っている若い女性。教室の正面にあるアパートの一室に住んでいる男が、彼女を盗み見ているうちに好きになってしまう。だが彼女は交通事故で植物状態になる。男は彼女が入院した病院で看護師をしており、彼女を排他的に世話し続け、すでに四年が経ったという設定だ。

もう一人の女性は闘牛士。闘牛師仲間の男とのあいだで失恋したばかりである。その彼女に一人の男が惚れる。二人は急速に接近するが、彼女は牛に攻撃されて大けがをおわされ、それがもとで植物状態になり、同じ病院に入院することとなる。

女同志は何の関係もないが、男同士は仲良くなる。たまたま映画館で席が隣同士であり、それがきっかけで仲良くなったのだ。かれらはお互い似た境遇、つまり愛する女が植物状態という境遇で、お互いに親密な気分になるのだ。若い女性に惚れているのはベニグノ、女闘牛士に惚れているのはマルコである。

マルコは女闘牛士の元愛人から、二人は彼女の自己の直前によりを戻したから、もう付きまとわないでくれと言われ、身を退く。一方ベニグノのほうは、看護師としての立場もあって、愛する女との共同生活を楽しむ。だがある時、魔がさして、昏睡している彼女をレイプし、妊娠させてしまうのだ。そのことでかれは刑務所に入れられてしまう。

マルコは刑務所にベニグノを訪問し、なにかと世話をする。そんなマルコをベニグノは信頼する。しかし女性が死産し、また二度と覚醒する可能性はないと弁護士から聞かされ、絶望して自殺してしまう。

マルコはベニグノの住んでいた部屋を遺産として残され、その部屋から向かいのダンス教室を覗いているうちに、若い女性がいることに気づく。彼女は四年ぶりに意識を取り戻したのだ。それを知ったマルコは、ベニグノの不幸に同情して涙を流す、というようなストーリーだ。

二人の男の出会うきっかけが映画だったように、この映画には映画へのこだわりが強く見られる。特にベニグノは映画、とくにサイレント映画をしょっちゅう見ている。かれが若い女性をレイプしたのは、ある映画に刺激されてのことだった。その映画の中で、小人にされた男が、裸の女のからだにまとわりつき、あげくは大きく開いた女陰のなかに侵入するシーンを見て、自分も愛する女のなかに忍び込んでみたいと願望したのである。そのシーンで、小人の男が巨大な女の裸体にまとわる姿が、ボードレールの女巨人という詩を連想させた。おそらくアルモドバルもボードレールのその詩を意識していたのだと思う。






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