散歩する侵略者:黒沢清

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黒沢清の2017年の映画「散歩する侵略者」は、SF映画の一種といってよいが、ほかのSF映画とはかなり趣を異にしている。これは異星人による地球攻撃の話なのだが、異星人が直接地球を攻めるわけではなく、何人かの地球人に乗り移り、その地球人が攻撃の手引きをするというもの。その点は怪談仕立てになっているわけで、怪談話が得意な黒沢の趣味を盛り込んでいる。


異星人に乗り移られた地球人が三人出て来る。高校生の女子と同じ年頃の男子、それに松田龍平演じる真治という青年だ。かれらは、最初は別々に行動している。そのうち少年と少女は一緒に行動するようになるが、真司だけは最後まで別行動だ。この三人に、雑誌の記者であるという中年男(長谷川博己)がからむ。映画の中での存在感は、この中年男がもっとも大きいので、事実上かれが主役といってもよいのだが、クレジット上は真司を演じる松田と、その妻を演じる長澤まさみが主役ということになっている。

映画は、異星人に乗り移られた少女が、自分の両親を殺害するシーンから始まる。ついで真司が精神鑑定を受けるシーンが出て来る。こちらは凶悪な行為には及ばないが、奇怪な行動で妻を悩ませている。ついで少女の家の殺害現場のシーンが出て来て、そこで長谷川と少年が出会う。長谷川は以後少年のガイド役を務めることになる。

少年には人の心にあるものを抜き取って、その人間を腑抜けにする能力がある。その能力は真司にもあって、妻の妹や妻にセクハラをする上司を腑抜けにしたりする。一方少女のほうは、そうした能力を使わないかわりに、やたらと人を殺すのだ。

かれらは異星人に乗り移られて、地球を侵略する手引きを使命として与えられている。そのためにはまず、使命を与えられた三人が集結し、一緒になってミッションを果すのが必要だと判断している。そんなかれらに、どういうわけか長谷川まで協力させられるのだ。

笹野高史演じる厚労省の役人なるものが、異星人の地球侵略計画を嗅ぎつけて接近してくる。そのあげくに、少年少女と長谷川がいる現場を急襲したりするが、うまくかわされてしまう。少年少女はついに真司と会うことができて、ここに地球攻撃の機は熟す。しかし真司はその攻撃の片棒を担ぐ気にはなれず、かえって少女を車でひき殺すのだ。異星人に乗り移られたとはいえ、体は地球人のものなので、車に引かれると立ち上がることができないのだ。また少年のほうも警察に追い詰められて死んでしまい、あとに長谷川が残される。長谷川はどういうわけか、少年たちのミッションを引き継ぐつもりである。

かくて二か月ほどが経過し、異星人の地球侵略が本格化する。その戦いのなかで長谷川は地球軍の爆撃機によって爆破され、真司たちは生き残るのである。

こういうわけで、仕立ては荒唐無稽なSFになっているが、地球侵略の先兵をほかならぬ地球人がつとめているというところに、不気味さを感じさせられる。少年を演じている高杉真宙が、なんともいえずとぼけた表情で、某元総理大臣の倅のトリッキーな表情を彷彿させる。






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