米最高裁人事をめぐる党派抗争

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米最高裁判事のルース・ベイダー・ギンズバーグの死去にともない、その後任人事をめぐって大騒ぎになっている。トランプと上院共和党は、大統領選の前に指名手続きを終わらせたいのに対して、バイデンと民主党は、大統領選後になすべきだと主張している。じつは四年前の大統領選挙のさいにも、それより数か月前に死んだ判事の後任指名を、選挙後に延ばしたということがあった。その際には、共和党側の強い意向に民主党側が譲歩したのであったが、今回はその共和党が、前例を無視して、早めに指名しようとして動いているわけだ。

その背景には、共和党側の危機意識があるようだ。トランプの敗北はともかく、上院も敗北する可能性が強い。そうなった場合、ギンズバーグの後任はリベラルな人物になるだろう。それを阻止するために、大統領選の前に、駆け込み指名をしようというわけだ。

これについては、民主党が、ダブルスタンダードだと言って抗議しているほか、有力メディアも批判している。とりわけWPなどは、共和党が汚い手を使うのなら、民主党側もウルトラCを繰り出すべきだと叱咤激励している。そのウルトラCとは、コート・パッキングといって、最高裁判事の定員を増やすことだ。合衆国憲法は、最高裁判事の定数は定めておらず、法律に委ねているので、もし民主党が大統領職に加え上院も抑えれば、可能なわけである。

ここまで競い立っているのは、もしトランプにやりたい放題にやらせたら、最高裁判事の党派構成は、保守派6人対リベラル派3人ということになり、アメリカの司法が極端に保守化するおそれをあるからだ。その結果、男女平等や少数民族の尊厳など、人権にかかわるイシューが軽視されることになる。しかも最高裁判事には定年がないので、保守派多数という情況が長い間続く恐れがある。そうなればアメリカは暗黒社会になりかねないというのである。

コート・パッキングは、過去にも問題になったことがあった。F・ルーズヴェルトが、ニューディール政策に頑強に反対する最高裁の人事を塗り替えるために、1937年に導入しようとした。その際には、最高裁判事たちが心を入れ替えて、ニューディール政策を認めたため、ルーズヴェルトはコート・パッキング法案を引っ込めた。今回は、共和党側が汚い手を使おうとしているのだから、遠慮する必要はない。そう言ってWPは、民主党に発破をかけているのである。






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