愛について、東京:柳町光男

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1990年台ごろから、日本も国際化が進み、外国人が多くやってくるようになった。なかでも中国人は、流入外国人としてはもっとも大きな割合を占め、従来からの在日韓国・朝鮮人にひっ迫する勢いを示すようになった。そういう傾向を背景にして、日本人の外国人差別意識も高まって行ったのではないか。柳町光男の1993年の映画「愛について、東京」は、そんな外国人への差別意識を強く感じさせる作品である。それまで外国人を主人公にした映画がほとんどなかったなかで、この作品のインパクトは大きかったようだ。それも否定的な意味で。この映画が公開されるや、中国人への差別意識に反発した団体が抗議のアクションを起こし、柳町らはその抗議を受け入れて、作品を再編集した。現在DVDで見られるのは、再編集後のバージョンで、オリジナルに比べて15分ほど短い。

主人公は、日本語を学びながらアルバイトをしている中国人の若者と、かれを取り巻く中国人たち。若者方純は、屠場で牛の屠殺のアルバイトをしている。東京の屠場と言えば品川駅東口近くの都食肉市場だろう。もっとも建物の外観は出て来ず、方純が事務的に牛を殺す場面が映されるばかりである。動物の屠殺は、色々な文化的な問題をはらんでおり、外国人が気軽にアルバイトでやる仕事ではないと思うのだが、それを中国人に気軽にやらせていることにも、隠れた差別意識を感じる。

方純は、いかさまパチンコで設けた金で、仲間と一緒に料亭に繰り出す。そこで一人の中国人女性と知り合う。両親は上海の出身だが、自分は日本で育ったので、中国語がしゃべれないアイリンという娘だ。そのアイリンまでまきこんでいかさまパチンコを続けているうちに、パチンコ屋の亭主につかまる。藤岡弘演じる亭主は、方純のパスポートを取りあげ、自分の言いなりにさせようとするが、アイリンに興味を示し、彼女を自分の情婦に差し出せとせまる。方純はあっさりとアイリンを差し出す。そのかわりに亭主公認でいかさまパチンコができるように要求する。要するに恋人を金で売るわけだ。

恋人を金で売るのは、男として最低であって、日本人にはとてもできないが、中国人はいともあっさりとしてしまう、というようなメッセージが伝わって来るのである。

藤岡はインポテンツでアイリンを満足させることができないので、アイリンは引き続き方純とのセックスを重ねる。そのうちにその関係がばれてしまう。藤岡はインポにかかわらず、嫉妬心は人一倍で、自分の女が浮気するのは許せないのだ。そのくせ、本妻が店のものと浮気していることは見逃す。変わった性格なのだ。変わっているという点では、インポテンツといいながら子供はいるのである。

なんだかんだとやりとりがあったあと、藤岡はアイリンをつれてどこかに姿を消してしまう。取り残された方純は、金づるのいかさまパチンコができなくなる。そこで仕事を変えて生きていくことにするが、その表情には、過去の出来事へのこだわりは一切見られない。まるで何事もなかったように、淡々とした毎日を過ごすのである。

こういうわけで、中国人が主人公なので、外国映画を見ているような印象である。

なお、方純が金を作るために自分の体を売る場面が出て来る。おそらく新宿二丁目あたりのホストクラブだと思しきところで、日本人の年増女に抱かれるのであるが、それを見た小生は、かつて中国旅行の際に体験したことを思い出した。ガイドの中国人が、老人の小生に向ってしきりに女の斡旋を申し出る一方、近いうちに日本に旅行するというので、日本での快適な過ごし方を色々アドバイスしてやった。なかでも金が底をついたときのしのぎ方を教えてやったのだが、それは新宿二丁目に行って、ホストクラブでバイトすればよいというものだった。男に掘らせるのがいやならば年増女に抱かれるがいい、即金で払ってもらえるので、金に困っている時には重宝だ、と言ったところが、その中国人のガイドは複雑な表情で小生を見つめたものだった。






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