クールベ「黒い犬を連れた自画像」:バルビゾン派の画家たち

| コメント(0)
courbet44.pierre.jpg

ギュスターヴ・クールベ(Gustave Courbet 1819-1877)は、バルビゾン派の画家たちの中では最も若い。コローとは二十三歳の年齢差がある。しかし、1840年代半ばごろにはサロンで入賞を重ねており、他のバルビゾン派の画家たちと、ほとんど同時代人として振る舞った。違うのは政治的な姿勢である。バルビゾン派の画家たちには、庶民の暮らしをありのままに描くという自然主義的な傾向がもともとあったのだったが、クールベはその傾向を前面化し、庶民の暮らしぶりを写実的に描くことで、社会の矛盾を告発するようなところがった。そういった傾向は、1870代にパリ・コミューンにかかわったかどで、政治的な迫害をもたらしたほどである。

クールベは、南フランスのスイス国境近い村オルナンに、裕福な地主の長男として生まれた。だから生活の心配はなく、思うように絵を描くことが出来た。その一方、地主の分際にかかわらず、社会主義思想にかぶれた。同郷の社会主義者プルードンの影響を受けたといわれる。プルードンは、あのマルクスが痛烈に批判したことで有名だが、フランス人の間では人気があった。日本でも一時、プルードン・ブームが起きたほどである。

クールベはもともと器用な画家ではなかったようで、その画風は対象を忠実に再現するというものだったが、それが時代の嗜好にこたえて、自然主義の大家と見なされるようになった。

「黒い犬を連れた自画像(Autoportrait au chien noir)」は、そうしたクールベの主実的な傾向が強く伺われる作品である。クールベはこの絵を、1844年のサロンに出展し、入選した。画家としての実質的なデビュー作といえる。

クールベには、生涯を通じて自己愛的な傾向があったと指摘されるが、この絵にはそうしたクールベのナルシシズムが伺われる。

(1844年 カンバスに油彩 46.3×55.5cm パリ市美術館)





コメントする

アーカイブ