岸田政権が分配重視の政策を打ち出している。とくに、子育て世帯や生活困窮者の所得補償を中心として、労働者の賃金の底上げもしたいと言っている。スローガンは、「分配なくして成長なし」だ。小泉政権以来の新自由主義路線は、「成長なくして分配なし」といっていたから、その正反対のように思われるが、よくよくみると、どうもそうではないらしい。
岸田政権は、富裕層への増税や金融所得への課税強化はしないといっている。では、どこから財源をひねりだすかということが問題になるが、岸田政権はこれを借金で賄うつもりのようだ。借金で財源をひねり出すというのは邪道だろう。
新自由主義は、経済のパイが大きくなれば、その増えた部分で貧しい人たちへの分配もできると説いてきた。いわゆるトリクル・ダウンの理屈だ。これは、最大多数の最大幸福をスローガンにした功利主義の考え方で、経済学ではその考え方をもとにトリクル・ダウンの主張が生まれてきた。しかし、トルクル・ダウンは、二重の意味で実現しないことが明らかになっている。ひとつは、増えた金は貧しい人にはいきわたらずに、金持ちに独占されるということ、もうひとつは、トリクル・ダウンが前提にしているパイの拡大が、もはや実現されることがないということだ。
だから、福祉の充実のために財源を探そうとすれば、富裕層や金もうけに成功した人間に負担させるしかないのだ。それを経済学では「再分配」といっている。一旦それぞれの懐に入った金を、政府が事後的に調整して、再分配するというものだ。それに対して岸田政権がやろうとしているのは、「分配」である。これは、パイを大きくして、その増加分を分配しようというもので、新自由主義の考えと異なるところはない。
岸田政権には、経済を活性化してパイを大きくする見込みはないということはわかっているらしい。だから、福祉の財源は借金で賄おうということになるのだろう。なんのことはない、新自由主義の前提に立ったうえで、福祉への強い国民の要求にどう応えるか、その問題に対する弥縫的な策というのが、岸田政権のやろうとしていることのようだ。
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