上意討ち 拝領妻始末:小林正樹

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小林正樹の1967年の映画「上意討ち 拝領妻始末」は、徳川時代の封建社会を生きる武士の、男の意地をテーマにした作品である。藩の不条理極まる仕打ちに怒った武士が、意地にかけて自分の誇りを守る。その結果自分自身は無論、家族にも甚大な影響が及ぶ、というような内容だ。武士の男の意地を描いていることでは、森鴎外の「阿部一族」と通じるものがある。また、小林自身、同じく武士の意地をテーマにした「切腹」を作っているので、よほど男の意地にこだわるタイプなのだろう。

「阿部一族」は、肥後熊本藩で実際に起きた事件を下敷きにしているとされる。それに対してこの映画は、会津松平藩の出来事とされている。史実というわけでもないらしい。その架空の話を会津藩に設定したのは、賊軍には何を言っても許される、というような日本の空気に乗ったものか。

不条理な仕打ちというのは、バカ殿の妾を妻として押し付けられたことに加え、後にその妻の生んだ子が藩の継嗣になるにともなって、再び召し返されるというもの。主人公は、妻を押し付けられた家の主人笹原伊三郎(三船敏郎)、その妻を娶るのは息子の与五郎(加藤剛)だ。妻は司葉子が演じている。与五郎は当初迷惑に思っていたが、次第に妻をいとしく思うようになる。その妻のほうも与五郎を愛し、女の子までもうける。そんなところへ、召し返しという話しが舞いこんできて、笹原の家は大きな危機に面する。

息子夫婦の愛が深いことを知った伊三郎は、命をかけても藩命に逆らおうと決意する。そんなかれらに藩は大規模な討伐軍をさしむける。それに対して笹原親子は果敢に戦う。そのさなかに息子夫婦は息絶えてしまう。伊三郎はその怒りを爆発させて、討伐群数十名を一人残らず切って捨てるのだ。そのあたり、三船演じる伊三郎はスーパーマンそのものである。なにしろ数十名の相手を一人残らず片付けてしまうのだ。

伊三郎は、息子夫婦の遺児トミを抱いて江戸へ向う。藩の不始末を幕府に訴えるつもりなのだ。そこへ関守の浅野(仲代達也)が立ちはだかる。この二人は日頃から仲がよいのだった。浅野は笹原を討てという藩命を断ってまで友情を貫いたのだが、本来の役目である関守の立場から笹原を逃すわけにはいかない。そんな二人はやむなく切り結ぶ。その結果伊三郎が勝つ、

だがそこへ、藩から第二次討伐軍が押し寄せる。これは飛び道具を持参している。さすがの伊三郎も飛び道具にはかなわない。体のあちこちを銃弾で打ち抜かれる。普通の人間なら即死するところだが、そこはスーパーマン、満身の力を振り絞って敵を殲滅する。だが、トミをつれて江戸へ行くことは出来なかった。そんなトミに向って伊三郎は叫ぶ、「お前の母のように優しい女になって、お前の父のようにりりしい男を夫にするのだ」と。

こんなわけで、不条理は常には栄えない、必ず正義が勝利する、だがそれは甚大な犠牲を伴う、というようなメッセージを感じさせる映画である。三船敏郎の活躍ぶりが、観客に深いカタルシスをもたらす。





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