幸せな四重奏:アンリ・ルソー

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アンリ・ルソーは、同時代の大家で新古典派の重鎮レオン・ジェロームを尊重していて、度々自分の作品の手本とした。前に紹介した「眠れるジプシー女」はその代表的なものだが、1902年の作品「幸せな四重奏」にもジェロームの影響が指摘できる。

この絵は、ジェロームの「純潔」を換骨堕胎したものだとの指摘がある。ジェロームの「純潔」は、裸体の男女にキューピッドと鹿を組み合わせたものだが、ルソーは鹿を犬にかえて、ほぼ同じような構図に仕立てた。ジェロームの絵は、はずかしそうに向き合っている裸体の男女を描いているが、ルソーのこの絵の男女は、笛を吹く男と、つる草を持ちながら笛の音に聞き入る女を描いている。

人物や犬の描き方には、リアルとはいえないものがあって、それが稚拙さの指摘を招くのだが、こうやって眺めてみると、ルソーがわざとそのように描いていることが伝わって来る。リアルにこだわらない点は、前景の植物をグロテスクなほどデフォルメしているところにも表れている。

背景の樹木を暖かい黄色に塗っているおかげで、ルソーとしては珍しく、全体に柔らかい印象を醸し出している。

(1902年 カンバスに油彩 95×58.1㎝ 個人蔵)





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