パリ近郊の眺め、バニュー村:アンリ・ルソーの世界

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ルソーの晩年に絵を買ってくれた画商には、ヴォラールの他、エッチンゲン男爵夫人とかアルデンゴ・ソフィッチといった人々がいた。エッチンゲン男爵夫人は、ルソーの画集を最初に手掛けた人である。またソフィッチは、以前見て感動した牛のいる風景をもう一枚書いてくれと頼んだ。それに応えて書いたのが、現在ブリジストン美術館にある「牧場」である。

その牧場と同じ頃に描いた作品に、「パリ近郊の眺め、バニュー村」と題するものがある。これもまた、牛のいるのどかな田園風景を描いたもので、この頃のルソーが、ある種の田園趣味にかられていたことをうかがわせる。この時期、つまり最晩年のルソーは、生涯最後の恋をしていたのだった。相手はウージェニー・レオニーという未亡人で、ルソーの税関時代の上司の娘だった。この上司はルソーを馬鹿にしきっていたが、娘のほうもルソーを馬鹿にして相手にしなかった。そのルソーに対する尊大なそぶりは、ルソーの友人をして「性悪なレオニー」と言わしめたほどだった。そんな女でも、ルソーは真心をこめて愛したのである。

この作品も、日本の大原美術館にある。田園の中に牛と牛飼いがのどかにたたずんでいる光景を描く。牛と牛飼い、その背後の麦わらなどが、現実の比例関係を全く無視して描かれているのは、いかにもルソーらしい。なお、バニュー村はパリの南の郊外だが、現在ではパリの市街地に連続している。

(1909年 カンバスに油彩 33×46・3㎝ 大原美術館)






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