新蛍:上村松園の美人画

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上村松園には蛍をモチーフにした作品が多い。「新蛍」と題するこの絵は、松園の晩年を飾る蛍の傑作だ。「新蛍」というタイトルの絵では、母子が蛍を入れた虫かごを覗き見る構図のものが有名だが、この作品は、薄の上を飛ぶ蛍を見つめる女性が描かれている。

この作品を松園は、昭和19年に京都で催された「戦艦献納画展」に出品した。芸術家による戦費調達への強力と、戦意高揚を目的とした展覧会である。松園はほかに静御前の姿絵も出品しており、戦意高揚への自分なりの意思表示をしたのだと思われる。当時の彼女には、「烈女」というイメージが結ばれていたようである。

この「新蛍」には、戦意高揚の趣は感じられない。ただ女性のきりりとした表情には、ヤマトナデシコの気概のようなものを感じ取ることができる。女性の、左右に大きく張り出した髷は「灯篭鬢」といって、歌麿の時代に流行したという。

この絵を松園は、本居宣長の肖像画で有名な祇園井特の美人画を換骨堕胎して描きなおしたという。井特も歌麿の同時代人である。

(1944年 絹本着色 73.0×88.0cm 東京国立近代美術館)





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