大正七年(1918)の八月に、夢二はたまきに生ませた次男不二彦をつれて長崎に遊び、美術コレクター永見徳太郎の世話になった。永見は南蛮趣味を持っていて、夢二の南蛮趣味に共感する一方、芥川龍之介、吉井勇らと親交があった。地方の素封家の道楽のようなものであろう。
長崎滞在中の印象に基いて、夢二は「長崎十二景」と銘打った水彩画のシリーズものを描き、それを三年後に永見に贈った。世話になった恩義を、得意の絵で返したわけである。
これは長崎の風物灯籠流しをモチーフにした作品。長崎の灯籠流しは精霊流しといわれ、徳川時代の享保年間ごろからおこなわれていた。お盆の行事である。
母子と思われる二人連れが、水に浮かんで流される精霊を見送っている。女はいかにも夢二風を思わせるデザインの浴衣を着ており、こどものほうは中国風の恰好をさせられている。長崎ならではの眺めである。
(1920年 紙に水彩 36.5×27.0㎝ )
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