盗馬賊:田壮壮の映画

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田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)は、陳凱歌や張芸謀とともに中國第五世代を代表する映画監督で、1986年に作った「盗馬賊」は、世界的な評価を受けて出世作となった。もっともその後、文革を批判的に描いた「青い凧」が当局の逆鱗に触れ、中國では映画を作れなくなってしまった。

「盗馬賊」は、1923年頃におけるチベットの遊牧民の生態というか風習をテーマにした作品である。たいしたストーリーがあるわけではなく、遊牧民たちの風習とかものの考え方が、スナップショット的に切り抜かれた映像を通じて紹介される。

小生は、チベットの遊牧民については全く知識がなかったので、この映画を見て色々教えられることが多かった。遊牧民であるから、馬を大事にしていること、また、有力な仏教圏として、ユニークな仏教文化を伝えていることなど。日本の仏教との共通性もある、聖霊を川に流す儀式とか、坊さんたちによる読経などである。そのお経の読み方は日本の古い宗派のそれとよく似ており、日本仏教の原点を感じさせるところがある。

遊牧民といっても、完全な放浪生活ではなく、定住の拠点をもち、部族の団結は固い。部族から追放されることは、場合によっては死を意味する。この映画の主人公は、強盗を働いた罪で部族から追放され、塗炭の苦しみを舐めるはめになる。その挙句一人息子を死なせる。二人目をさずかったところで、男は妻子だけでも部族に復帰させたいと思い、自分だけの孤独な放浪を選ぶ。そのために、馬泥棒を働くのだが、その馬の所有者たちにとらえられて、殺されてしまうというのが大方の筋書きである。

筋書き自体は非常に救いのないもので、そればかり強調されると気が滅入るのであるが、幸い映画は、チベットの遊牧民たちの暮らしぶりを丁寧に紹介してくれるので、見ていて飽きることがない。

1923年といえば、辛亥革命で清朝が倒れたものの、新政権の基盤が固まっていなかった時期だ。中国全体が、なんらかの具合に不安定だったわけだが、チベット社会もそうだったのだろう。この映画の主人公はたびたび盗賊行為を働くのである。それに対して、公権力ではなく、私人がリンチという形で仕返しをする。一昔前のアメリカ西部と同じような無法ぶりがまかり通っているといった印象である。





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