ホッパーが早い時期から人物画、とりわけ裸婦に興味を示したのも、ヨーロッパ美術の影響だろう。アメリカでは、そういう伝統はなかった。というより、美術的な伝統そのものと無縁な国だった。だからホッパーがヨーロッパ、とくにパリに出かけて行って、美術の伝統に接したのは、かれの芸術家としての成長にとって、有意義なことだった。
ホッパーの初期の裸婦画は、水彩のものも含めて、自分自身に閉じこもった孤独な女を描いたものが多い。「夏の室内(Summer interior)」と題したこの作品もその一つだ。部屋の中で一人呆然としている女性を描いたものだ。女は下半身を剥きだして、ベッドにもたれながら床に座っている。彼女の表情は観客の目には見えない。一方、彼女のむき出しの下半身は、性器の一部まで見せている。その性器の部分は赤く塗られているから、見る者にとって挑発的な印象を与える。
だが、絵の雰囲気は、基本的には静寂を感じさせる。それは、裸婦をモチーフにしながら、それを画面の中心に置かず、周辺部しかも下部に配置していることからくる。この絵の中心を占めるのは、寒々とした部屋の空間なのであり、裸婦は、背景の炉と同じように、部屋を飾る要素に過ぎないと思わせるほどだ。
わざわざ夏の室内と断っておきながら、実際には寒々とした眺めを描ているわけで、そこにホッパーの対象を再現する独特のやり方を見ることができる。
(1909年 カンバスに油彩 61.0×73.7㎝ ニューヨーク、ホイットニー美術館)
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