ハッシュ:橋口亮輔のゲイをテーマにした映画

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橋口亮輔の2001年の映画「ハッシュ」は、ゲイのカップルの共同生活にセックス好きの女が割り込みややこしい三角関係を形成するという話。何といっても、ゲイカップルのセックスライフをあけすけに描いたところが見どころ。この映画以前には、特殊なポルノ映画を除いては、ゲイのセックスライフを正面から取り上げた作品はなかった。おそらく、デレク・ジャーマンあたりの影響だと思う。

ゲイカップルのうち一人(直也)はペットショップの店員で、自分がゲイであることをある程度カミングアウトしている。母親もそんな息子を受け容れている。一方もう一人(勝裕)は、土木会社の技術者であり、ゲイであることをひた隠しにしている。その勝裕に、一人の女が興味をもち、あまつさえあんたの子どもを産みたいと言い出す。この女は、セックス好きが嵩じて、子宮に異常を呈している。産婦人科の医師は、過剰セックスのための異常で、俗に「やりだこ」だと説明する。できたら子宮まるごととってしまったほうがよいと。

「やりだこ」という言葉は、小生は初耳だ。セックスをしすぎて子宮が炎症をおこすことはありうると思っていたが、まさかタコができるとは知らなかった。いわゆる三業婦の職業病なのだろうか。ともあれこの女(朝子)は、子宮を失う前に子どもを作りたいと思うようになる。理屈ではない、ひたすら子どもが欲しいのだ。子どもがいれば、生きる活力を与えてもらえると信じ込んでいる。その朝子が勝裕を択んだのは、彼の眼が父親に相応しい目をしているからだ。申し込まれた勝裕は、最初は面食らったが、考えてみると答える。パートナーの直也は、びっくり仰天する。

だが、どういうわけか三人は一緒に暮らすようになる。そのうち互いに連帯感が生まれ、かれらを迫害するものたちに協力して立ち向かうようになる。迫害するものたちのうちで最も手ごわいのは、勝裕の家族、とりわけ兄の妻だった。兄の妻は、意に染まない結婚はするべきではないと、勝裕に忠告しながら、いざ彼がゲイだとわかると、偏見を丸出しにして迫害するのだ。

こんな具合に、ゲイであることを自らの宿命として受入れ、けなげに生きるカップルがテーマである。彼らにまとわりつく朝子の存在を別にすれば、この映画は、日本という国において、ゲイが生きることの困難さをテーマにしているといってよい。ゲイへの偏見は、2022年の現在でも根強いから、2001年当時にはもっとひどかったはずだ。そうした時代風潮のなかで、あえてゲイのカップルにも存在意義があると訴えることは、なかなか勇気のいることだったろうと思う。

なおタイトルの「ハッシュ」とは、マザーグースにもあるとおり、赤ン坊を寝かしつける時の掛詞だが、この映画の中では、赤ン坊は出てこない。





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