ウクライナは勝っているのか:Holding Ground, Losing War

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ウクライナ戦争をめぐる報道を見る限り、プーチンの意図は破綻し、敗北の色が濃厚になってきた、というような見方までされているが、果たしてそうなのか。そこにはプーチン憎しの感情にもとづく希望的観測が含まれていないか。そんなことを思っていた矢先に、ウクライナがかえって深刻な窮状に陥っており、ウクライナ自体が敗退するばかりか、そのウクライナを支援する西側諸国も深刻な事態に直面するだろうという見通しを述べた記事に遭遇した。アメリカの保守系雑誌 The American Conservative に寄せられた Holding Ground, Losing War :Zelensky's strategy of defending territory at all costs has been disastrous for Ukraine. By Douglas Macgregor という文章である。

この記事が触れている事実のうちで重要なのは二つのこと。一つはウクライナ軍の損失に関するもので、それによればウクライナ軍は毎月二万人以上の死傷者を出しているという。これまで各国のメディアは、ロシア軍の損失ばかり報道し、ウクライナ軍の損失については、わざとのように触れないできた。おそらくウクライナ側の志気をそがないようにとの配慮が働いたのであろうが、それにしても、ウクライナ軍がロシア軍以上の損失をだしていることは十分考えられたことだ。

もう一つは、西側の制裁によってロシアは深刻な事態に陥っており、遠からず経済的な破綻に見舞われ、それがもとでロシアは戦争遂行の能力を失うであろう、つまり敗北するであろうとの憶測がさもありなんというふうになされているが、実際には、ロシアの戦争遂行能力は損なわれておらず、また、近い将来破綻する可能性は少ない。かえってロシアを制裁している西側諸国のほうが、経済的な破綻に見舞われるほうが先だ、というような推測をこの記事はしている。

つまり、敗北ないし失敗するのはロシアではなく、ウクライナとそれを支援する西側のほうだというのである。プーチンが30万人の予備役に動員をかけたのは、戦況の悪化にプーチンが焦っているためだというような憶測がなされているが、それは根拠の薄い推測であって、実際には、ロシアが勝利を確実にするために行っている措置だ、とこの記事は見ている。ロシアはこれによって、戦況を確実に有利なものにし、その本来の目的を達成しようとしている。その目的とは、ウクライナ全体を支配することではなく、東部のドンバス地域及び南部を併合することだという。ロシアが併合対象に考えている地域は、ウクライナの工業生産の95パーセントをカバーしており、国全体としての決定的な産業拠点であって、これをロシアに取られることは、ウクライナにとって致命的だ。ウクライナはいまでも低開発国だが、産業拠点を失うことによって、ただの農業国になってしまうだろう。

ロシアが東部と南部の併合に成功すれば、次の目標はオデーサだとこの記事は見ている。オデーサでは、プーチンがネオナチと呼ぶ連中によるロシア人の大量虐殺が起きており、それを許すことはできない。それにオデーサはロシア革命の勃発についても重要な地となった経緯があり、ロシアにとっては、クリミアに劣らず重要な意義があるということらしい。





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