リンゼイ・アンダーソン「八月の鯨」:老いを見つめる

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リンゼイ・アンダーソンの1987年の映画「八月の鯨(The Whales of August)」は、人間の老いをテーマにした作品。老いた姉妹の生き方を通じて、人間が老いることの意味を考えさせるように作られている。その姉妹を、リリアン・ギッシュとベティ・デヴィスが演じている。リリアン・ギッシュはサイレント映画の大女優であり、この時には93歳になっていた。またベティ・デヴィスは、トーキー映画初期の大女優であり、その風貌とか演技ぶりは、小生のようなものも魅了されたものだった。この映画の時点では79歳になっていた。

特にこれといった筋書きはない。メーン州の離島に住んでいる姉妹の日常が映し出されるだけである。時たま、隣人たち(近所の老女、釣りを楽しむ老人、年老いた大工)が現われて彼女らと会話を交わすが、それにはドラマ性はない。とにかく、老いた姉妹の日常的な会話が延々と映し出されるのである。その会話を通じて、彼女たちの人生に対する態度とか、死への心準備とかいったことが伝わってくる。

ベティ・デヴィスの演技が圧倒的な存在感を以て迫ってくる。彼女はその時79歳で、けっしてよぼよぼになるような年ではないはずだが、まるで100歳の老女のような印象を与える。わざとそのように化粧しているのか、それとも地なのか、小生などは、彼女の古くからのファンなので、とまどってしまった。一方、リリアン・ギッシュのほうは、とても93歳とは思えない。せいぜい70台くらいに見える。もっともそれは外観についてのことで、立ち居振る舞いには年齢相応の衰えを感じる。

「八月の鯨」とは、八月にこの離島にやってくる鯨のことだ。おそらくメキシコ海流に乗って、南のほうからやってくるのだろう。映画の中では、鯨は姿を見せず、そのかわりにイルカが泳いでいるのが見えたということになっている。彼女らが鯨にこだわるのは、鯨に親近感を抱くアメリカ人の一般的な傾向を現しているのだろう。日本人にも鯨好きはいるが、鯨は日本人にとって、どちらかというと食べる対象であって、愛玩する対象ではない。

ともあれ、彼女らはなにかと喧嘩しがちなのであるが、最後には和解するのだ。その和解した二人が、鯨の姿を求めて海を眺めるところを映しながら、映画は終わるのである。なお、この映画は、日本では岩波ホールで公開されたが、評判が広がって、異例のロングランになったそうだ。老いの問題が深刻に受け止められ始めた頃のことだからだろう。





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