8年越しの花嫁 奇跡の実話:瀬々敬久の映画

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瀬々敬久の2017年の映画「8年越しの花嫁 奇跡の実話」は、冒頭に「実話にもとづく」ということわり書きがあるように、実際にあったことを映画化したものである。その実話とは、結婚直前に脳の難病により意識不明に陥った恋人の回復を願い、寄り添い続けた若者の話である。若者の執念が実を結び、恋人は意識を取り戻したが、恋人との関係はなにも覚えていなかった。しかし、恋人の献身的な姿を見ているうちに、その姿に感動し、あらためて彼を好きになるというものである。意識を失ってから、二人が再び結ばれるまで、八年かかったというわけである。

要するに若い男女の恋愛物語りなのだが、男のほうの誠実に焦点をあてていることが、普通の恋愛映画とはちがう。女が男に誠を貫くというのは、よくある話だが、この映画のように、男が女にひたすら誠を貫くというのは、これまでの日本映画にはなかったことだ。日本は色々な部面で多様化が進んでいるといわれるが、男女の恋愛にも、あたらしい関係のあり方が生まれているということか。

瀬々は、もともとピンク映画から出発したが、その後社会的な視線を強く感じさせる作品を作ってきた。男女の純愛を描いたのは、この映画が最初ではないか。瀬々は男女の下半身の結びつきを描くことは得意だったが、心を通じた男女の結びつきは、この映画で初めて表現した。

この映画では、女がつねに積極的にふるまい、男は謙虚である。状況をリードするのは常に女であり、男はその状況に適応することに神経を使う。この映画の中の男も、そうした男の一人である。かれは、女が作った状況に適応しようとして全力を挙げる。そんな男を女は、あまり評価する気持ちにはならなかったが、男の度を外れた誠実ぶりに心を動かされる。現代の日本では、男が女を獲得するには、それ相応の努力が必要だと、この映画は忠告しているかのごとくである。





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