吉田喜重「煉獄 エロイカ」:戯画化される左翼過激派

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吉田喜重には、人を食ったような悪ふざけに興じるところがある。1970年の作品「煉獄 エロイカ」はそうした傾向を強く感じさせるものだ。前年に作った「エロス+虐殺」にもそういう傾向があらわれていたが、この作品はそれをもっと表面化させ、そのことである種のグロテスク趣味に陥っている。

「エロス+虐殺」は大杉栄と伊藤野枝の痴情を描いたものだったが、こちらは戦後の過激派左翼をテーマにしている。左翼の中でも、どうやら日本共産党がモデルのようである。それを徹底的に戯画化している。吉田は根っからの共産党嫌いのようである。

それはともかく、映画のメーンプロットは、党の方針にしたがわず、しかも裏切りを働いたことを理由に、ある党員がリンチを受けて吊るされるというものである。それに複雑な過去をもった少女とか、その少女を相手に快楽にふける男とか、その男の妻が絡んでくる。色々な人間が出てくるのだが、みな個性に乏しく、同じような顔つきをしているので、岡田茉莉子以外は区別ができないくらいだ。

その岡田を含めて、登場人物が、わざと台本を棒読みするようなセリフ回しをする。これは意図的にそうしているのだろう、そのことで、この映画のモチーフをなった左翼の連中を戯画化するつもりなのかもしれない。

映画の中では、さまざまな暴力的計画について触れられるが、1952年という舞台設定から見ても、それが戦後日本共産党が一時期採用した武力闘争方針を揶揄したものだとは、容易に察することができる。






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