ミロシュ・フォアマン「火事だよ!かわい子ちゃん」:チェコの官僚主義を笑いのめす

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ミロシュ・フォアマンは、チェコ・ヌーヴェルヴァーグ映画を代表する監督。1967年に作った「火事だよ! かわい子ちゃん」は、そのヌーヴェルヴァーグ映画の代表作といえる。かれは、この映画製作を最後に、チェコを脱してアメリカで映画作りをするようになるので、チェコ時代の最後の作品である。テーマは、チェコの官僚主義の批判といったところ。パンチの利いたやり方で、官僚主義に毒されたチェコの人々を笑いのめしている。

舞台はチェコのある町の消防署。高齢の元署長のために、贈り物をしたいと考えた消防署員たちが、ただ手渡すだけではなく、ミス消防から贈呈する儀式を行いたいと考える。そこで、消防署員の中から若い女性を選び、大勢の観客(みな消防の関係者)が見ている前で、ミス・コンテストを行う。ところがコンテストを行っている最中に、近隣で火事が起こり、コンテストどころではなくなる。やっと火事を消し止めて、コンテストを再開したものの、候補者の若い女性たちはみな逃げ出してしまう。せめてコンテストにともなう富くじだけはやろうということになったが、肝心な景品が消えてしまった。どうやら消防署員たちが、日頃の賄賂感覚でくすねてしまったようなのだ。

そんな具合に、官僚組織の典型としての消防署を舞台に、署員の強欲とか、硬直した組織運営とか、女性蔑視といったものが、徹底的に批判される。その批判は、問題となっていることを笑いのめすという形をとる。フォアマンには、ブラック・ユーモアのセンスが豊かに備わっているようである。

こうした映画がチェコで作られたのは、プラハの春につながる自由化の賜物だったといえるのではないか。プラハの春が挫折すると、チェコ社会の自由な雰囲気は後退し、再び官僚的で抑圧的な雰囲気が蔓延するようになる。フォアマンを含めた映画人の多くは、そんなチェコに愛想をつかして、国外へ拠点を移してしまうのである。

なお、アメリカにわたったあと、フォアマンは「カッコーの巣の上で」といった鋭い社会批判の作品を作る一方、「アマデウス」をはじめとする伝記映画を数多く作った。かれの作風は、華麗さを感じさせるもので、その華麗な感じが、この映画にもすでに現れている。






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