トルコ映画「雪の轍」 トルコ人の家族関係

| コメント(0)
turc.snow.jpg

2014年のトルコ映画「雪の轍(ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督)」は、トルコ人の家族関係とか人間同士の付き合いを描いた作品。チェーホフの短編小説「妻」にヒントを得たというが、チェーホフの原作はロシア人の夫婦関係を描いており、したがってロシア的な家族関係を踏まえているが、この映画はくまでも、トルコ人のトルコらしい社会関係を踏まえているとみてよいのだろう。単純には言えないが、家族関係においては家父長の権威が強く、社会関係については打算的で金にうるさい社会だという印象が伝わってくる。

映画の舞台は、トルコ中部のカッパドキア。アンカラの南東数百キロの山岳地帯だ。そこでホテルを営む男アイドゥンを中心に映画は展開していく。展開すると言っても、劇的な要素はほとんどない。登場人物たちが繰り広げる対話からなっていると言ってよい。アンドゥンには若い妻と出戻り妹がいるほか、ホテル客や従業員とのやりとりもある。映画は、アンドゥンとかれをとりまく人間たちとの会話とか、やり取りを淡々と写すだけなのである。

アンドゥンは傲慢で、専制的な性格だ。その専制的な性格が、妹や妻との対立を導く。映画の前半は、アンドゥンと妹の罵り合いに近い言い争いを写しているし、後半では、若い妻との間の衝突とそれに伴う危機が写される。それに挟まれた形で、借家人とのトラブルが起きる。そのトラブルとは、借家人の子供がアンドゥンの乗った車に石を投げつけたことがきっかけだった。家賃滞納のため家具を差し押さえられたことに、子供ながら憤慨して行為に及んだのだった。

そのほか、妻が慈善事業に熱中していることをめぐって、夫婦の対立が起きる。アンドゥンは妻が悪党どもの餌食になっているといって、止めさせようとするのだが、実はそれは妻と他の男との関係を疑ったうえでの嫉妬だというふうに伝わってくる。

そんなわけで、アンドゥンはかなり傲慢で専制的なところを見せる。また、家賃滞納をめぐるやり取りや、客とのやり取りを通じて、かれが金に細かい人間だというふうにも伝わってくる。借家人とのトラブルも、彼の金への執着に根差しているといってよいのである。

こういう映画を見せられると、トルコというのは、男性優位で権威主義的な社会だという印象を持たされる。そのわりに、この映画の中の女たちは卑屈ではない。妹は兄に向かってあけすけに批判めいたことを言うし、妻もまた夫に屈従したりはしない。むしろ夫の方が、妻の愛を失うことを恐れているのだ。その点だけは、チェーホフの小説に出てくるロシア人と似ているかもしれない。





コメントする

アーカイブ