日本人の自殺

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五木寛之と立松和平の対談「親鸞と道元」を読んでいたら、2008年の9月に日本の新聞史上初めての出来事があったと五木が言い出した。それは、朝日の一面トップに「自殺者十年連続三万人を越える」という見出しが出たということだった。なぜそれが珍しいかといえば、自殺の記事というのは、縁起が悪いということもあって、社会面の端のほうに小さく載るのが普通で、一面トップで扱われるようなものとは思われていなかったからだ。それが一面トップを飾るに至ったのは、自殺の問題が深刻化していることのあらわれなのだろうと、その五木の発言からは伝わって来た。

そこで、ネットで日本人の自殺の統計を調べてみたら、自殺者が史上初めて三万人を越えたのは1998年のことであって、それ以来2008年まで十年連続三万人を越えていた。その傾向は2011年まで続き、三万人を下回るのは2012年のこと。それ以降は、むしろ減少傾向をたどり、2018年には二万人余りにまで減少した。

このことから、21世紀初頭の日本は、非常に自殺者の多かった時代だということが見えて来る。何故そうだったのか。専門家の分析によれば、日本の自殺者は四十代、五十代の働き盛りに多く、その理由は経済的な苦悩が大きな割合を占めているという。ということは、21世紀初頭の日本が、慢性的な不況に苦しみ、しかも格差社会が進行する中で、生きづらさを感じる人が非常に増えたということなのか。生きづらいといって、そのことがすぐに自殺に結びつくとは限らないように見えるが、日本の場合にはどうやら、経済的な生きづらさが、働き盛りのはずの人間を、自殺に駆り立てる要因を抱えているということのようだ。

日本には生活保護制度というものがあり、最後には公的支援によって生活を守られるので、それを利用すれば、少なくとも自殺することはないと、小生などは考えてしまいがちだが、ことはそう簡単ではないようだ。生活保護に頼るにはかなりな決意がいる。日本の社会ではまだまだ、生活保護を受けるのを潔しとしない風潮があり、周囲の人間たちも安易に生活保護に頼る人間をバッシングする傾向が強い。そういう社会にあって、たやすく生活保護を受けられなければ、せめて自分が死ぬことによって、残された家族があたたかく生活保護を受けられるようにと願う人も出て来るのではないか。

日本人の自殺者、それも働き盛りの年齢の人たちの自殺者が多いことには、そんな要因がひそんでいると考えられる。ともあれ、近年自殺者が減少する傾向が続いているのはよいことだ。この傾向が経済の状況をそのまま反映しているのだとしたら、経済が好調な限り自殺者も増えないだろうと推測できよう。





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