トランプをめぐる福音派内の相克

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アメリカの宗教勢力のうちでも最も規模の大きい福音派は、トランプのコアな支持層として知られている。歴史的にみても、福音派はアメリカの政治に大きな影響を及ぼしてきた。この宗派は、二・三十年ごとに宗教的な高揚を示し、そのたびごとに宗教親和的な大統領の誕生に寄与してきた。ロナルド・レーガンを大統領にしたのもこうした福音派の宗教的感情の高揚だったのであり、その宗教的高揚がトランプを大統領にしたわけなのだった。

ところがその福音派の声を代表するといわれる新聞「クリスチャニティ・トゥデイ」の社説が、下院によるトランプの弾劾決議を踏まえて、トランプをやめさせようという主張をした。トランプは弾劾裁判によって罷免されるべきであるし、もしそうならなければ、次の大統領選挙をつうじて排除されるべきだというのである。このことに関する記事を読んだ小生は、ちょっと信じられない気持にもなったが、他方では、福音派に見放されては、トランプの再選はかなりむつかしくなると感じたのでもあった。

トランプは無論慌てた。早速ツイッターを通じて、クリスチャニティ・トゥデイは極左新聞であるとこき下ろし、その言い分を信じるなというようなメッセージを発したところだが、それに応えるような形で、福音派のかなりの数の指導者たちが合同して、クリスチャニティ・トゥデイの社説に対する批判を発信した。その中には、クリスチャニティ・トゥデイの創業者ビリー・グレアムの孫娘もいたそうだ。

批判といっても、さすがにトランプとは違って、それなりの根拠を示している。たとえば、聖書は人の罪に対して、それを糾弾するのではなく、許すべきだと言っている。その聖書の精神に忠実たらんとする我々福音派は、トランプが仮に悪いことをしても、それを許すのが信仰の本旨なのであり、糾弾するようなことをしてはならないのだ、というような、かなり苦しげな理屈を弄している。福音派といえば、日頃聖書の真実性を信じ、人間は猿から進歩したのではなく、神が創造したまうたのだと、子どもたちに教えているところだ。だから今回トランプを擁護するについて、聖書を持ち出すのは自然なことと言えなくもない。それにしても、苦しい理屈に聞こえる。

一方クリスチャニティ・トゥデイの編集責任者は、我々がトランプを批判するのは、正義にかなったことなのだと主張している。我々は、クリントンが不道徳な行為(強制猥褻)をした時にも、彼を罷免すべきだと主張した。トランプもまた不道徳な行為(国家への裏切り)をしたわけだから、それに対して批判的な態度をとるのは、首尾一貫した立場の現われなのだと言って、批判者たちを反批判している。

ともあれ、トランプにとって福音派は、最もあてにしているコアな支持層である。その支持層の中に分裂と相克が生まれるようでは、再選をかけた選挙はかなり危ういと言わねばならぬだろう。





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