ルノワール:印象派の巨匠(作品の鑑賞と解説)

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オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir)は、日本人が最も好きな西洋画家の一人だ。日本人は、西洋画の中でも印象派の画家たちが好きだが、ルノワールはその印象派を代表する画家として受け取られている。たしかにルノワールは印象派の画家としてキャリアを出発したし、また印象派のチャンピオンとしての印象が強いのであるが、自分自身は印象派に括られることに満足しなかった。実際、ルノワールの初期の印象派風の絵と、晩年の絵を比較すると、そこにかなりの相違が認められる。ルノワールは、生涯を通じて、たえず自分からの脱却を試み、新たな画風に挑戦し続けた画家といってよい。その点では、生涯にめまぐるしく画風を変えたピカソに通じるところがある。

ルノワールはフランス中部の町リモージュで、服の仕立て屋の息子として生まれた。ルノワールが三歳の時、一家はパリに移り、ルーヴル近くの界隈に住んだ。十歳年上の兄アンリは版画家となり、義兄のシャルルは図案家だった。その感化もあって、少年ルノワールは絵を描くのが好きだった。13歳の時には、磁器の絵付師のもとへ修業に行った。幼い時から、本格的な絵の修行をしたわけである。その甲斐があって、ルノワールの人物画は、非常によく人間の表情を捉えている。

1861年、二十歳の時に国立美術学校に入学したが、そこはあまり馴染めず、スイス出身の画家シャルル・グレールの主催する私立の画塾に並行して通った。この画塾でルノワールは、後に生涯の友となる画家たち、クロード・モネやアルフレッド・シスレーと出会った。かれらは当時主流だった古典主義的な画風に挑戦し、ロマン派の巨匠ドラクロアや自然主義の画家コローを称賛した。ルノワールの初期の作品にみられる自然主義的傾向は、こうした傾向の現われだといえる。

当時の画家にとって、官営の展覧会サロンが、出世への登竜門だった。ルノワールも、せっせとサロンに出展した。入選した作品もあるが、おおむね不評を買った。古典主義の伝統から逸脱していたからである。しかし、ほかの印象派仲間に比べれば、まだましな扱いを受けた。それでもサロンに入選するのは非常にむつかしかった。

1874年にルノワールは、ドガやシスレーなどの画家仲間とともに、私設の展覧会を開催した。サロンに落選した作品を展覧したことから落選展と自分たちでは呼んでいたが、そこに出展されていたモネの絵「印象」が悪い意味で話題となり、この一派を十把ひとからげにして印象派と呼ぶようになった。印象派の名前の淵源をつとめたモネは、以後生涯にわたって印象派の画風を追求するようになるが、ルノワールは、先述したようにそこからの脱却を目指した。

印象派としてのルノワールの画業の頂点は、1876年の「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」や1876年の「ブランコ」などである。しかしこれらの作品によっても、ルノワールの名声はなかなか高まらなかった。彼の名声を一挙に高めたのは、1878年の「シャルパンティエ夫人とその子どもたち」である。この作品はサロンでも絶賛された。この成功に気をよくして、「舟遊びする人々の昼食(1881年)」や「テラスにて(同年)」といった傑作が生まれた。

ルノワールは、1881年末から翌年にかけてイタリア旅行をした。これがルノワールの画業に取って転機となった。イタリアで見たラファエロの作風が、ルノワールに古典主義の見直しを迫ったのである。以後ルノワールは、フランスの古典主義の大家アングルを研究しなおし、古典主義的な画風を取り入れることになる。ルノワールの古典主義的傾向は、明確な輪郭と様式的な表現となってあらわれた。それまでは、対象をかなり忠実に描きながら、光と色彩を重視したのであったが、対象を様式的に表現しながら、光と色彩を重視することにはかわりはなかった。

1890年代になると、ルノワールはフランス画壇を代表する画家として受け取られ、国立美術館にも作品が展示されるようになる。また、1900年にはレジョン・ド・ヌール勲章を貰ったりして、その名声はいよいよ高まって行った。しかしルノワールの晩年は比較的早くやってきた。かれは1890年代から痛風に苦しむようになり、絵筆もろくに持てない状態に陥ることもあった。それでも手に結わえ付けた筆をキャンバスにたたきつけるなどの工夫をして、なんとか絵を描き続けた。そんなルノワールが晩年もっぱら描いたのは、裸婦像である。特に浴女を描くことを好んだ。今日ルノワールといえば、豊満な肢体をした浴女が思い浮かぶほど、裸婦のテーマはルノワールと深く結び付いているのである。ここではそんなルノワールの代表的な作品を取り上げて、鑑賞の上、適宜解説・批評を加えたい。なお、上の絵はルノワール晩年の自画像である。





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