ネレトバの戦い:ユーゴスラビアの映画

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1969年のユーゴスラビア映画「ネレトバの戦い」は、第二次世界大戦の一こまを描いた作品。チトー率いるパルチザン部隊が、枢軸軍を相手に善戦する様子を描いている。枢軸軍を構成するのは、ナチス・ドイツ、ファッショ・イタリア、クロアチアのほかユーゴの王党派チェトニクである。1943年になって、連合軍の圧力が高まる中、ユーゴスラビアでは、チトーの勢力が強まっていた。そこで枢軸側としては、ユーゴスラビアを引き続き制圧するためにチトーの勢力を破壊する必要があった。枢軸軍は、一気にチトー派の撃滅にとりかかったのである。それに対して、チトー派のパルチザン部隊は果敢に戦い、枢軸側の野心を打ち砕くといった内容である。

映画のほぼ全部が、枢軸側とチトー派との激突を描くことに費やされている。チトー派は、ユーゴスラビア全域から集まってきたパルチザンたちが主体で、そこにイタリアの反ムッソリーニ派が加わっている。一方枢軸側にはユーゴスラビアの王党派チェトニクが加わっており、対パルチザン戦で活躍するのは、そのチェトニクなのである。だから、大局的には枢軸側と連合軍側の対決という体裁をとってはいるが、実際にはユーゴスラビ人同士が殺しあっているわけである。そのへんは、現在進行中のロシア・ウクライナ戦争と似ている。この戦争も、ロシア対NATOの戦争という体裁なのだが、実際にはスラブ人同士が殺しあってわけである。

この映画が作られた1969年には、ユーゴスラビアはまだ国家としての一体性を保っていた。そのユーゴスラビアが解体するのは、チトーが死んですぐのことで、そのことから、ユーゴスラビア国家がいかにチトーの権威の上に成り立っていたかを感じさせるものだ。この映画で描かれた戦いは、そのチトーの権威を高めたもので、戦後成立したユーゴスラビア国家にとって、民族全体の一体感を象徴するようなものだったはずだ。

もっとも、その期待もむなしく、チトーが死ぬとユーゴスラビアはバラバラに解体してしまった。まず、クロアチアとセルビアが反目しあったが、クロアチアは枢軸側についたという歴史的な事情から、ユーゴスラビア時代には、どちらかというと、二級市民扱いされていた。その鬱憤が、チトーの死をきっかけに爆発し、独立へと向かっていったのである。そうした動きが、他の構成国にも連覇し、ユーゴスラビアはあっという間に解体してしまった。もともと、民族性も言語も同じ人間が、歴史的な背景や宗教の違いなどによって、複数の国家に分断されてしまったわけだ。そうした分断を乗り越え、同一民族として結束するには、チトーのような天才的な政治指導者が必要ということだろか。

なお、この映画の中のチェトニク軍は、いまのロシア国旗と同じ旗をかざしている。昔は、その旗がスラブ共通の旗だったらしい。






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