薄雪:鏑木清方

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大正六年(1917)、鏑木清方は文展に出典していた画家仲間数名とともに、金鈴社という団体を作って、自主展覧会の開催を開始した。文展には、清方によると、うるさい制約があったようで、そうした制約を離れて自由に描きたいという動機から、そのような団体を作ったようだ。その第一回展覧会を、日本橋の三越で開いたが、そこに清方は「薄雪」と題した作品を出展した。

近松門左衛門の有名な浄瑠璃「冥途の飛脚」に取材した作品だ。梅川と忠兵衛が心中する場面を描く。「大門口の薄雪も今降る雪も変らねど変り果てたる我が身の行方」と語られる場面をイメージしたものだ。時代考証にも芝居衣装の対小袖を避けて、自分の欲するままにこの大作に取り組んだと、「画心録」に記している。

面と向かってうずくまった梅川と忠兵衛は、互いの袖口から手を差し入れて、相手の肌のぬくもりをまさぐりあっている。梅川の顔は心なしか紅潮し、そこに見る者はエロティシズムを感じるだろう。

清方はほかに「お七吉三」など恋や遊里に取材した作品を出したが、それは、わざと浮世絵趣味を押し出したのだと言っている。

(1917年 絹本着色 184×84㎝ 個人コレクション)






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鏑木清方 薄雪によせて
 清方のブログへの投稿はこれで3度目になりますが、短期間結成された金鈴者の5人展で出品されたものでしたので、改めて所有している練馬区立美術館10周年記念展の5人展図録を見直していたところです。これまで紹介された曲亭馬琴や一葉の墓にある女性表現とこの作品はいずれもなぜかホットするような印象を受けます。確かにこの作品は本来は心中前の男女の悲恋物語である浄瑠璃から離れ、散人さんの評にあるように、清方の想像により男女のエロチシズムすらも感じさせます。今後も清方作品評を期待します。

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