オアシス:イ・チャンドン

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イ・チャンドンの2002年の映画「オアシス」は、ヴェネツィア映画祭で銀熊賞を受賞した。韓国映画としては、メジャーな国際映画祭で受賞するのは初めてのことだった。これ以後、韓国映画は頻繁に受賞を重ね、国際的に認知されていくわけだが、この映画はその嚆矢となった作品である。

テーマは重い。軽い発達障害があるらしく、社会に適応できない男と、重症の脳性麻痺のために意思疎通に困難をかかえる女との、悲しい恋を描く。男は不適応のあげく三度も服役し、そのため前科者として疎外されている。一方女のほうは、身体障碍を理由にひどい差別を受けている。映画の中で、男が女をつれてレストランに入るシーンがあるが、女を見たウェイトレスが条件反射的に排除しようとする。それを見ると、石原慎太郎的な優生意識を感じさせられるのだが、そういう差別意識は今の日本ではさすがに露骨にまかり通ってはいない。ところが韓国では、21世紀になってもまだ根強く残っていたということなのだろう。

この二人は、弱い者として、さまざまな差別を受けるのであるが、もっともひどいのは、家族がかれらの弱い立場を利用して、食い物にしていることである。女は障害者であることから、低家賃の障害者住宅を割り当てられるのだが、その住宅に兄夫婦が住み、女はもとのアパートに置き去りにされるのである。一方男のほうは、兄が犯したひき逃げ事件の身代わりとして服役したということになっている。すでに前科者なのだから、もうひとつ前科が加わってもたいしたことはないというわけである。

この男女が触れ合うきっかけとなったのは、刑務所から出所した男が、自分が身代わりになったとはいえ、ひき逃げ事件の被害者の家族に謝罪しにいったことだ。男の謝罪を女の兄夫婦は受け入れない。それはともかくとして、重い障害を抱えている女が一人取り残される様子を見た男は、その女に強い関心を寄せるのだ。その後男は、女と強い結びつきを持つようになる。最初は軽い気持ちで、女を強姦しようともするのだが、女の様子を見ているうちに、そんな自分が情けなく思えるようになり、女を本気で愛するようになる。女のほうは、最初は強姦されそうになって強いショックを受けるのだが、そのうち男が恋しくなる。今まであらゆる男から相手にしてもらえなかったのだ。それが自分をかわいいと言ってくれる男が現われた。女ははじめて青春を感じることができ、心はときめくのだ。

映画は、そんな二人のいじましいほどの純愛を描く。その純愛のあり方が、人間の愛とは何か、ということを深く考えさせるように作られている。あわせて、そんなかれらに立ちふさがる社会の壁の存在についても考えさせるのだ。その社会の壁が二人を無情に隔てる。かれらは、女の部屋ではじめてのセックスをするのだが、その現場に現れた兄夫婦によって、強姦扱いされたあげく、男は再び刑務所に入れられてしまうのだ。女は、男の無罪を必死になって主張しようとするが、兄夫婦によってその試みは妨害される。兄夫婦は、男の家族から金をゆすりとるつもりでいるのだ。

こういうわけで、ストーリーとしては、気が滅入るほど暗い話なのだが、男女の純愛がそれをやわらげてくれる。その純愛が、人間の生き方を深く反省させてもくれるのだ。だからこの映画は、見る者につよい情動を起させる。非常に感銘深い作品だといえる。

脳性麻痺の女を演じたムン・ソリの演技が真に迫っている。彼女はときどき健常者にすりかわるのだが、それがあるために、障害を演じている部分が一層引き立って見える。彼女の恋人役を演じたソル・ギョングの演技も、なかなか渋さを感じさせる。






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