隠された記憶:ミヒャエル・ハネケ

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ミヒャエル・ハネケの2005年の映画「隠された記憶(Caché)」は、ミステリー仕立ての復讐劇である。それに人種差別問題を絡ませてある。フランスを舞台に、支配者としてのフランス人が、被支配者としてのアフリカ人から、昔行われた不条理な差別に対して復讐されるというような内容だ。したがって、単なるミステリー映画ではなく、かなりメッセージ性の高い作品である。

夫婦と思春期の息子からなる一家に、不審なビデオが送りつけられるところから映画は始まる。誰かが自分の家を撮影することで、お前たちを監視しているというメッセージを送りつけているようなのだ。ビデオは次々と送りつけられ、また不審な図柄の絵も送りつけられる。首から血を吹きだしている動物の図柄だ。そうした絵は、彼等の家ばかりでなく、かれらの友人のところにも送りつけられる。

その事態に対して妻がパニックになったのはともかく、主人公の男も重大な脅威を感じる。当初は、何が目的でこんなことをしているのか、心当たりがない状況のなかで、主人公もミステリアスなものを感じ、それを見ている観客のほうもミステリアスな気分にさせられるというわけである。そういうミステリアスな状態が映画の前半を支配する。

後半になると、ミステリーは一転して解消する。脅迫行為を繰り返している男が明らかになり、その男と対面して、かれの意図を聞くことが出来るようになったのだ。そこで明らかになったのは、主人公が六歳のときに、その男に対してなした嫌がらせが、その男の人生を狂わせてしまい、男は主人公を深く恨むようになった。その恨みを晴らすための復讐をしているというのである。その嫌がらせというのは、嫌がる相手に鶏の首を刎ねるように強要したというものだった。それがもとで、相手の子は性格異常と決め付けられ、少年院のようなところに押し込められてしまったのである。

はるか昔の子ども時代に起こったことへの復讐を、相手の男がなぜ今になってする気になったのか。それがよくわからない。もっとわからないのは、その男が主人公を殺すのではなく、自分自身を殺してしまうことだ。しかも自分の首を切って夥しい血を流すことで。そのことによって主人公を罰するというのでもないらしい。惨めだった自分の人生に自分でくぎりをつけるといった具合なのだ。

そんなわけで、かなりわかりにくい映画である。かすかにわかりやすいのは、主人公が、子どもの頃のこととはいえ、他人の人生を破壊するようなことをしたことに強い自責の念を覚え、自分も自殺する決意をしたらしいことだ。映画は主人公が睡眠薬を飲んで寝るシーンで終わっており、かれが自殺したとは明確に言っていないのだが、観客にはそう受け取れるのである。





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