伊勢松坂の継松寺に伝わる「雪山童子図」は、蕭白の代表作「群仙図屏風」とほぼ同じ時期、伊勢に遊んだ34歳前後の作品と思われる。「群仙図屏風」同様、鮮やかな色彩感覚が特徴的である。
モチーフは釈迦の前世譚。釈迦の前世の姿である雪山童子が、飢えた羅刹のために我が身を食べ物として差し出したというもの。羅刹は実は帝釈天が変身したもので、釈迦の信仰心を試すために飢えた姿で現われたということになっている。
この絵は、雪山童子が樹上から身を翻そうとし、それを鬼姿の羅刹が待ち構えているという構図。テーマは非常に敬虔なのだが、この絵からは敬虔さは伝わってこない。雪山童子の表情は、鬼をからかっているように見えるし、鬼のほうは大きな腹を抱えて、童子をひと呑みにしようと、大きな口をあけている。
おそらく寺の求めに応じて描いたのだろうが、これでは信者の前で釈迦の敬虔さを語るには相応しくないだろう。蕭白はなぜ、こんなひにくれた描きかたをしたのか。
ともあれこの絵の持ち味は、強烈な色彩感である。赤、青、黄色といった原色を組み合わせ、光の躍動を感じさせる。
(1564年頃 紙本着色 170.3×124.6cm 松坂、継松寺)
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