待月:上村松園の美人画

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「待月」とは、月見の折に月の出るのを待つことを言う。京都では古来庶民の風習になっていた。松園は京都人として、この待月の雰囲気を画面に定着したかったのだろう。

この絵の待月は、立ちながら月の出を待っているところから、陰暦17日の「立ち待ち月」を描いたもののようである。18日になると月の出の時刻は遅くなるので、立って待つわけにもいかず、座って待つ「居待ち月」となり、さらに19日になると夜半にさしかかるので、寝て待つ「寝待ち月」となる。

黒い薄物を着た女が、二階の廊下の手すりごしに月の出るのを待っている。影のつけ方からして、光源は右斜め上のはずだが、おそらく月の光ではなく、人口の明かりだろう。女が見ている方向は画面中央の奥にあたり、その方向に月が出るのを予想しているように見える。

この作品は、画面の中央に柱を配し、そのことで画面が左右に分裂しているので、構図上不安定だという批判がなされた。しかしそれを松園が気にした気配はない。松園は、画面に垂直の線を入れるのを好んだのである。

(1926年 絹本着色 194.0×106.0cm 京都市美術館)





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