新蛍:上村松園の美人画

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松園は、蛍が好きだったとみえて、たびたび絵のモチーフに取り上げている。「新蛍」と題したこの作品は昭和七年のものである。大正二年には、歌麿の風俗絵を手本にした「蛍」を描いているが、若い女の色気を感じさせたものだった。それに対してのこの絵は、母子の蛍狩りの様子を描いている。

娘が蛍を入れた籠を覗き込み、それを母親が世話している。籠の上に手をかざしているのは、蛍の出す光を一層よく輝かせようというのであろう。

蛍狩りは、水辺に大勢の人々が集まって楽しむものだったようだ。小生の子どもの頃まで、市ケ谷の外堀でも、夏の風物詩として蛍狩りが催されていた。人々は、宵闇の中に光る蛍を求めて、あちこち動き回ったものだ。

背景にほんのりとした感じで芦の葉が描かれることで、ここが蛍飛び交う水辺だということをアピールしている。簡単な構図ながら奥行きを感じさせる作品である。

(1932年 絹本着色 46.0×49.0cm 奈良市、松柏美術館)






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