夕暮:上村松園の美人画

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「夕暮」と題するこの絵も、母を追慕した一連の作品の一つで、単に母を追慕する感情が強く伺われるだけでなく、松園の最高傑作と呼ばれるに相応しい完成度を示した作品である。

思い出の中の母が、夕暮れの弱い光の中で、「もう一寸、ほんのこれだけ縫うたらしまいのやんよって・・・ほんに陽のめが昏うなった」とつぶやきながら、針に糸をとおす仕草を描いたものである。

構図的にも色彩的にも申し分がない。松園得意の縦線を軸にしながら、それに横線を絡ませて変化をもたせ、障子の合間から母のイメージを出現させている。無駄な部分は一切切りすてられ、きわめて単純化された構図ながら、人間の息吹が直接伝わってくるような雰囲気を感じさせる。

松園はこれを、第四回新文展に出展し、その終了後に、当時孫娘が通っていた京都府立第一高等女学校に寄贈した。いまでもその学校で保存されている。

(1941年 絹本着色 213.0×99.0cm 京都府立鴨沂高等学校)






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