真実:是枝裕和の映画

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是枝裕和の2019年の映画「真実(La vérité)」は、是枝がフランスに招かれて、日仏共同制作として作った作品。かつての大女優が、女優としての末路を迎えるというような設定だが、その大女優とは、この映画の主役を務めたカトリーヌ・ドヌーヴであることは、その女優の名がドヌーヴのミドル・ネームであるファビアンヌであることからも、見え見えになっている。だからこの映画は、カトリーヌ・ドヌーヴへのオマージュとして作られたといってよい。この時ドヌーヴは76歳になっており、年齢相応の衰えを感じさせもするが、肉体の衰えを気力でカバーしてなおつりがくるといった演技ぶりを見せてくれる。彼女の娘役を務めたジャクリーヌ・ビノシュは55歳になっていたが、こちらは実際の年より老けて見えた。

大女優ファビエンヌが、自身の回想録を出版し、世間の話題をさらう。長い間別居していた娘も、亭主と子供を連れてニューヨークから祝福にやってくる。だが、その回想録を読んだ娘は、欺瞞に充ちた書き方だと考え、母親の不誠実を批判する。その批判を母親はまったく気にしない。偉大な女優は、実際の真実よりも、名声の輝きが似合うという理屈からだ。

母親は、新たな映画の仕事に取り組んでいる。もうすっかり年をとったので、なるべくセリフを言わなくてもいい役だ。それでも失敗したりはする。そんな母親の姿を見ているうちに、娘は次第に母親に打ちとけていく、といったような内容だ。

何ということもないストーリー展開であり、たいした波乱も起きないので、母親を演じたカトリーヌ・コヌーヴと、その娘を演じたジャクリーヌ・ビノシュとの丁々発止といえるやりとりが唯一の見どころである。母親が娘の部屋に無断で立ち入って、娘らがセックスしたあとの余韻を感じ取る。そこで「何回したの?」と聞く。娘は二回やったと答える。よかったかと聞くと、よかったという。あの人は、何のとりえもないけど、セックスはいいのよ、と。

こんな具合に淡々と母子の関係が描かれる。フランス人にとっては、つかず離れずのこうした関係が理想的な親子関係なのだろう。

なお、是枝がなぜフランスで映画を作る気になったか、日本ではこんな映画は作れないと思ったのか。聞いてみたいところである。





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