風船をもつ女:萬鉄五郎の世界

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「風船をもつ女」と題するこの絵も、「ボアの女」同様女の半身像だが、雰囲気はかなり違っている。「ボアの女」の顔はなかり単純化されているとはいえ、実像から極端に乖離していない。それに比べるとこの絵は、かなりデフォルメされている。顔が、いくつかの面を組み合わせているところは、「赤い目の自画像」と同じく、キュビズムの影響を指摘できる。

やや斜めによじられた女の半身像で、女のもっている赤い風船がポイントとされているが、それよりは女の左手に光っている電灯のほうが迫力がある。電灯の光は黄色で表現されており、光に照らされた部分も黄色く塗られている。だから女の右半身は、黄色っぽいのである。一方画面の右手は、光が届かないせいで、暗い闇になっている。

風船からのびた紐が、途中で曖昧になっている。だから女が手で持っているというよりは、空中に浮かんでいるように見える。萬は、絵が現実と対応することにほとんど考慮をはらっていないのである。

このモデルをつとめた女性も妻のよ志と思われる。花や唇の形が、「ボアの女」のモデルによく似ているからだ。しかしこんな風に描かれては、モデルは喜べなかっただろう。

(1912年 カンバスに油彩 72.4×52.9㎝ 岩手県立博物館) 





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