中野晃一「右傾化する日本政治」を読む

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中野晃一の著作「右傾化する日本政治」(岩波新書)は、タイトルにある通り日本政治の右傾化をテーマにしたものである。中野は「右傾化」という言葉を厳密に定義しているわけではないが、現実にかれが右翼政治家の代表と考えている安倍晋三を基準にして、安倍の行動を促している動機や具体的な政策を右傾化の内実としているようである。それを単純化して言うと、対米従属という形のグローバル化への対応と、新自由主義的な経済政策ということになりそうである。

日本の政治学意味あいの要素を中野は「旧右派」と呼ぶ。それに対して安倍が体現しているものを新右派と呼んで、その内実は先ほど述べたような対米従属と新自由主義だとするわけである。

日本で政治の右傾化が本格的に始まったのは中曽根政権のときだと中野は言う。中曽根の右傾化は、多分に民族主義的な色彩を帯びており、その限りで旧右派の路線にしたがっていた。同じ頃に政治の右傾化を推し進めたサッチャーとレーガンは、無論民族主義的な要素も含んでいたけれど、基本的には新自由主義路線をとっており、したがって中野の言う新右派を先取りしていた。日本で新右派が主流となるのは小泉政権以降のことである。それ以後、多少の揺り戻しを繰り返しながら、日本政治は確実に右の方へ傾いてきた。安倍政権はその仕上げであって、安倍政権のもとで極端な右翼的政策が追求され、その結果日本は、自由と民主主義が破壊される危機的状況にある、というのが中野の基本的な見立てである。

政治の右傾化は、日本だけでの現象ではなく、欧米諸国でも共通した動きだという。その右傾化を進めているのが、グローバリゼーションの進行に乗った国際資本の利己的な動機だという。日本でもこのグローバリゼーションの流れに乗って、利益を露骨にむさぼろうとするグローバル企業が出現している。一時期経団連の会長を出したキャノンなどは、外資比率が三割を超すグローバル企業であり、外国人資本のエージェントとしての役割りも果たしていた。そうした役割意識に基いて、日本が世界で一番企業にもうけさせる国になることをめざした。これは大局的に見れば、国益を外国人に売り渡すようなもので、本来的には民族主義を標榜する右翼との親和性はないはずなのだが、なぜか日本では、こうした買弁的な動きまで右傾化の流れに含まれてしまうのである。

その背景には、右翼もグローバル化しているという事態があるのだろう。グローバル化した右翼の共通の目標は、新自由主義的な発想にもとづく、利己的な利益追求の合理化ということである。個人の金もうけの自由を最大限保証する一方、貧乏人には自助努力を求め、そのために社会保障制度を解体して、小さな政府を実現する。これが基本だが、それに重ねて、各国の事情を踏まえたナショナリズムも衰えてはいない。むしろ盛んになっているほどだ。中野がこの本を書いたのは2015年のことで、トランプはまだ大統領になっていなかったが、トランプが体現するアメリカ・ファースト(実はホワイト・スープレシズム)が勢いをつけており、西欧の各国でもナショナリスト政党が躍進していた。そういう中で日本の安倍政権もナショナリズムを煽り立てている。安倍のナショナリズムは、歴史修正主義と排外主義という形をもっており、特に対中・対韓関係において、唯我独尊的な態度が強くみられる。しかし余りその方向へ進みすぎると、日本はアメリカからも見放され、やがては世界の孤児になってしまうのではないか、というふうに、中野は、余計なことかもしれないが、日本政治の右傾化を憂慮しているのである。






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