風景:萬鉄五郎の抽象風景画

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萬鉄五郎は1919年に、東京から神奈川県の茅ケ崎に転居した。「風景」と題するこの絵は、茅ケ崎のどこかの風景を描いたものだろう。のんびりとした田舎道や農家の屋根の点在する眺めを描いたものだ。

一見してわかるとおり、色彩が非常に明るく、フォルムは大胆にデフォルメされている。デフォルメはこれ以前より鉄五郎が得意としたもので、そう目新しくはないが、色彩の明るさ・豊かさは新たな画境をうかがわせる。

鉄五郎は、土澤時代にいったん非常に暗い画面作りに傾いたのだったが、茅ケ崎の明るい自然に囲まれて暮らすうち、画面にもその明るさを取り入れたということかもしれない。

この絵は、別の作品の一部を活用して描かれたと推測されている。もとの絵は「水浴する三人の女」といって、1921年の帝展に出展されたが落選した。鉄五郎はその絵が気に入らなくて、切り裂いたそうだ。そしてその切り裂いたカンバスの一部を利用して、それに別の絵を描いた。それがこの作品だというのである。

この絵をよくよく見ると、画面握下のあたりに、もとの絵の一部がそのまま露出しているのがわかる。以前描いたカンバスの上に、別の作品を描きなおすというのは、よくあることだが、この場合には、切り裂いたカンバスの一部を仕立て直し、そこに別の絵を、前の絵の一部分を生かしながら、重ねたというわけである。

(1922年頃 カンバスに油彩 33×46㎝)





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