ニューヨークの映画館:ホッパーの世界

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ホッパーは、1930年代には、風景画はけっこう描いているが、人物画は少ない。ホッパーの人物画は、車内とかオフィスルームなど、閉じられた空間の中に、いわくありげに見える人間をスナップショット的に描いたものが多い。「ニューヨークの映画館(New York movie)」と題する1939年の作品もその典型的なものだ。

タイトルにあるとおり、ニューヨークのとある映画館の内部を描いたものだ。左側にスクリーンを前にして映画に見入っている観客たちを描き、右側に脇の通路に立っている案内嬢を描いている。案内嬢は、小首をかしげながら右手を顎にあて、何かを夢想しているように見える。一方スクリーンに向かった観客たちは、これは別の世界の白昼夢を見ているようである。

案内嬢も、観客たちも、われを忘れて別の世界に遊んでいるように見える。ホッパーはおそらく、大都会の真ん中で人間たちが互いに疎遠に振る舞い、それぞれ夢を見ながら生きているということを表現したかったのだろう。

スクリーンには、山脈の一端が映っている。それを見る観客たちは、照明を落された暗い空間の中で輪郭がよくわからないほど、実在感がない。といって、明るい光の中に立つ案内嬢にも、実在感があるとはいえない。

なお、この案内嬢のポーズをとっているのは妻のジョーである。彼女は夫の執拗なリクエストに応えて、何度も下絵のモデルをつとめたということである。

(1939年 カンバスに油彩 81.9×101.9㎝ ニューヨーク、現代美術館)





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