寝ても覚めても:濱口竜介の映画・初恋の男と瓜二つの男

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濱口竜介の2018年の映画「寝ても覚めても」は、かれにとって出世作というべき作品だ。「ドライブ・マイ・カー」が面白かったので、ついでに見たのだったが、これもやはり面白く感じた。その面白さは、最近の若い日本人の、異性愛の変化を、この映画が敏感に反映しているからだろう。異性間の恋愛は、女性がリードするというのは、日本では昔から一定程度散見されることではあったが、近年の日本人は、男の引っ込み思案が高じて、異性間恋愛が始まるためには女がリードしなければならないし、その成功の度合いも女の努力にかかわる割合が大きくなってきている。この映画は、そうした近年の日本の異性愛の傾向を象徴的に示しているように思えるのである。

初恋の相手と瓜二つの男と仲良くなった女が、その初恋の男と再会すると、どうにも我慢がならず、そちらへとなびくのであるが、よくよく考えたあげく、今の男を選びなおすというような内容である。今の男は、女の愛をいまひとつ信じられないでいたが、女に逃げられて体面を失ったことで、いたく立腹する。だが、女への執着を断ち切ることがなかなかできない。愛の主導権はあくまでも女にあって、男はその意思に屈従するしかないというふうに、この映画からは伝わってくるのである。

こういう男女関係を見せられると、小生のように古風な人間はただただあきれるしかないのだが、今時の若い人の間では、あたりまえのことのようである。その当たり前の感覚が、人びとにこの映画を受容させたのであろう。

なお、主人公の友人が新劇めいた演劇をやっていて、イプセンの「野鴨」のセリフをうなったりする場面が出てくるが、演劇のモチーフは「ドライブ・マイ・カー」でも出てくるので(そちらはチェーホフの「ワーニャ伯父さん」)、濱口は演劇がよほど好きらしい。





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